第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
外は北からの風が強くなってきた。
ロマアヤ連合艦隊の将兵らは皆発ち、最後にソマ、ヤエ、ベーミラ、デグランが、陸路、古都アミュ=ロヴァへ出発する時刻になっていた。
一行は道中コダーヴ市でメレナティレから来るワダイル、ピスムと合流する予定である。
すでに城内はナズテインが一切、取り仕切ってくれている。
見送りにシェブロンとタフツァが出た。
ヤエは両手でタフツァの手を握り、うつむき気味に、言葉を探していた。
しかし、いつまでたっても何も出てこなかった。
タフツァはソマにかけてやった上着を腕にかけている。
ソマの温もりはなくなっていた。
この上着もヤエが返した。
ソマは、この魔法剣士の親友がタフツァに寄り添うのを見て、二人はよく似合っていると思った。
ヤエがいつ頃から慕うようになったかといえば、それはメレナティレ体制が残る旧都リザブーグへ、LIFE騎士団とタフツァ達が攻め入った時なのである。
当時、タフツァがバリアを張り、前を切って駆けていく後ろにヤエが付いて走るのを、LIFE騎士の多くが見ていた。
実際のところ、彼女がいなければタフツァは入城の時点で倒れていただろう。
それほど困難な作戦だったのである。
たとえば、これまでの戦場におけるファラとフィヲの関係は、まさしく「アタッカー」と「ヒーラー」だった。
体力を消耗させながら剣で戦う、あるいは魔力を消耗させながら攻撃魔法を撃つ、いずれにしても体がもつ時間は有限だ。
そのため後ろに「ヒーラー」が付いて、体力もしくは魔力の消耗を回復させながら共に戦う、といった戦法が威力を発揮する。
「ヒーラー」が力尽きない限り、「アタッカー」は戦い続けることができるからだ。
タフツァとヤエの関係も一見、同じように見える。
だが役割は異なっていた。
タフツァが「盾」、ヤエが「アタッカー」だった。
世界で最強の「盾」が、敵陣の只中へ突っ込み、無敵の防御力を以って全ての攻撃を防ぐならば、「アタッカー」はどれほど戦いやすいだろう。
またどれほどの勝利を博せることだろう。
最も師を苦しめた宿命の天地に、LIFEの一大拠点を築く。
これがタフツァの決定(けつじょう)した“一念”だった。
シェブロンもまた、絶対に自らリザブーグを去ることはすまいと心に決めていた。
彼の師ラオンジーウもまた、ここで数々の難を受けたからである。
師と弟子は一体となって大事を成(じょう)ずるものだ。
この、かねてからの師弟の熱願を助ける役割を、ヤエは見事に果たした。
もしもタフツァが倒れれば、リザブーグを取り戻したところで何になろう?
敵味方、一人の犠牲も出さずに入城を遂げたからこそ“LIFE”の戦いと言えるのではないか。
アミュ=ロヴァに生まれ、“LIFE”に縁あってこの地へ来たヤエは、自身が生まれてきたことの意味を、その価値を、タフツァとともに成し得た戦いの中に初めて見出すことができたのである。