The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 04 話
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ミナリィ港から帰還するのは、ロマアヤ、セト、メビカ、ウズダクの4国艦隊だ。
同じ方向であるだけに、そろって出発することもできるが、船は一度に出港できない。
港で一日つぶすわけにもいかず、互いにリザブーグ城で別れを告げて、時間差で帰路についた。

今朝方ノイは準備を終えると、シェブロンに挨拶に来た。

「先生、私は最後まで残って、護衛の勤めを果たしたく存じます・・・。」
「その気持ちはありがたい。
だがルング=ダ=エフサへ行くのはきみ一人だ。
島に残してきた家族や住人たちを守ることが、私を守ることになるんだよ。」

まだ多くは起き出しておらず、タフツァと夜通しの警備にあたった者だけが動いていた。

「わかりました。
一足先に出発させていただきます・・・。」
「頼んだぞ。
現地の皆の意見を、話し合いを尊重しなければならない。
きみの一存で動くのではないよ。
彼らがいなければ約1年という月日を凌げなかっただろう。
私は本当に感謝している。」
「先生、このノイは、リザブーグに危険が迫る時、たとえ皆が反対しようとも、一人馳せ参じてお護りいたします。」
「そう信じているよ。
・・・皆の出発まではだいぶある。
後輩の騎士たちに会っていきなさい。
きみに代わってLIFEを護り抜いてくれるだろう。
私はきみを信頼している。
きみも若い騎士たちを信頼して、しばらくは夫として、父としての役目を立派に果たしてきたまえ。」

ノイはまだうつむき加減だったが、シェブロンが固く握手をしたので、顔を上げて目を見合った。

「“生命(いのち)”に替えても・・・!!」
「よし、行ってこい!」

深く辞儀して、階段を降りる前に振り返り、また辞儀した。
シェブロンも同じように、深くノイを敬った。


ザンダの身支度も整ったようだ。
ヌダオン=レウォに助けられ、片腕のアドミラル・ハムヒルドが出発していく。
彼らは元敵同士であり、年齢的にはヌダオンの方が上だった。

「儂(わし)らもすぐに出発する。
先に行ってワイエンの海をなだめておいてくれ。」
「はっはっ、これは御頭、年をとって穏やかな海を好まれるようになったのか。」
「頭領が誰もおらなんで、さぞかし気が立っていることだろう。
悪しき流れに飲まれるわけにはいかん。」
「着いたら共同作戦を依頼するかもしれません。
その時はまた!」

親しみのこもった冗談を交わしながら、力関係の上では一歩も退かないという睨(にら)みの利いた握手を交わす。

そこへシェブロンが見送りに来た。

ヌダオン=レウォ、アドミラル・ハムヒルド、キャプテン・レスタルダ、更にメビカへ随行することになったジシュー将軍まで、皆膝を着いて最敬礼した。
シェブロンも右手を胸に当てて深く頭を下げる。

「どうかご無事で。
帰国されましたら、皆様にくれぐれもよろしくお伝えください。」
「先生、儂は老いてもなお、剣の腕前で若い者に引けを取ったことはかつてなかった。
しかしあなたの教えを受けた剣士たちは実に強い。
メビカも将来を思えば、次の世代に託したいのです。」
「旧王国の騎士たちも、“LIFE”に目覚めたことで見違えるほどに強くなっています。
誰もが“LIFE”を求め、その実現を願っています。
武に生きるならば武において、魔法であれば魔法において、自分らしく“LIFE”を実現していく若者が、世界の各地に誕生することを私は深く願っています。」

近くにいることが多かっただけに、ハムヒルドもすっかりシェブロンに敬服していた。

「これは俺の夢ですがね、今度の異変がおさまったら、リザブーグとロマアヤと、レボーヌ=ソォラ、セトもメビカもウズダクも、若いモンの『交流団』を遣わして、互いのいいところを勉強する、ってのはどうでしょう?」

シェブロンの目が輝いた。

「すばらしい考えです。
全面的に支持します。
必ず、皆の手で実現させましょう。」

彼はハムヒルドが、「今度の異変がおさまったら」と言ったことがうれしかった。
会議の場でも、事の重大さに皆うなだれ気味で、果たして解決に至るのか、という悲観が漂っていたからである。

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