The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 01 話
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レボーヌ=ソォラへ向けて発つ準備を終えたソマは、リザブーグ城の屋上へあがっていた。
曇った空に、絶えずひんやりとした風が流れている。

彼女は何度か咳(せき)をして、冷たい空気を吸い込んだせいかと考えた。

「やっぱり、何かおかしい。
魔法エネルギーの均衡が崩れ始めている・・・。」

そこへタフツァもあがってきた。
彼は今日、皆を送り出した後、リザブーグ城の運営全てをナズテインに託し、自らテンギと交戦する心積もりだった。

「ソマ、きみも『長老の森』に行きたかったかい?」

ソマは振り向いて、更に咳をしながら頭を振った。

「ヱイユ君がいるから?
そりゃあ、わたしもファラくんフィヲちゃんみたいに、彼と一緒に戦えたらなあって思うけれど、お互いね、全然だめなの、そういうの。」
「そうか・・・。」

ソマが再び北の欄干に手をかけたので、タフツァは自分の上着を彼女の肩にかけた。

「ヱイユには、きみがアミュ=ロヴァにいることを知らせるよ。
・・・将来は、住みたい街とかあるのかい?」
「いやだっ、まだ決戦が控えているのに、先のことなんて・・・。」
「アミュ=ロヴァにはきみが必要だと思うんだ。
・・・子供たちから、『ソマ先生』って呼ばれていたね。
とても似合っていたよ。」

夢は平和な世界を実現して教師になりたいという気持ちを知られているだけに、ソマは顔を赤らめて笑った。

「僕は先生のお側(そば)にいる。
先生が旅をされるなら、どこへでもお供(とも)するつもりだ。」
「うん、タフツァはそれがいいわ。
あなたを必要としている人が、世界中にいると思うの。」

かつてタフツァをリーダーとするパーティが組まれた時、補佐役としてソマが同行した。
師シェブロンも、タフツァとソマは互いに補い合って良いはたらきをすると見ていた。

だが二人は、同じ目的を持ちつつも、別々の地に生き、使命を果たしていくことになるだろう。
そのことを強く意識して、今日の別れを惜しむのはタフツァの方だった。

「ヱイユもきみも、そして僕も、皆も、絶対に無事で戦いを終えられるように。
・・・どうか、そのことだけは祈っているよ。」
「わたしも・・・。」
「着いたら手紙を書いてほしい。
先生宛か、僕宛でも構わない。」
「わかったわ。
タフツァも、ちゃんと書いてよね。」

兵士に呼ばれて階段の方へ戻って行くタフツァに、ソマはハッとして振り返った。

「タフツァ、上着!」
「いいよ、まだここにいるだろう?」

ソマは一緒に降りて上着を返してしまうのが寂しく思われて、しばらく彼の温もりを感じながら、再び北の空を見た。

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