第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
「きみとフィヲが編み出した“究極魔法陣”は『正八角形』だったね。」
「そうです。
外側に、火・熱・土・磁・水・冷・風・電の8つを配し、内側に、爆・滅・壁・重・吸・変・喚・衝の8つを配して・・・。」
「外側と内側に描かれる円は、“二重の虹”だと言っていた。」
「フィヲと考えたんです。
師匠と弟子が同じ心で戦う時に“LIFE”が発動する、それなら外側の虹がぼくら教え子の勝利、内側の虹はシェブロン先生の勝利の虹だね、って。」
シェブロンは熱い感慨が込み上げるようだったが、一層厳格な調子で尋ねた。
「師弟の勝利を描くんだな。
では、『正八角形』を描く時、いつもこの形を思い描きなさい。」
そう言って彼の魔導書の1ページを開いて見せた。
文字がぎっしりと書き込まれた本の中、図で示されている箇所だった。
「これは・・・!?」
たしかに「正八角形」だが、魔法の文字は配されていない。
何かの華のようにも見える。
「8つの葉を持つ蓮(はす)の華だ。
蓮華は花びらが散る前に実をつけている。
普通は華が先、実が後になるのだが。
華は“原因”、実は“結果”。
“生命”もまた、“原因”と“結果”を同時に具えている。
だから“LIFE”の魔法陣も、『八葉蓮華』の形をしているんだ。」
ファラは驚いた。
何年、否、何十年も前に著された書物である。
もしかすると、シェブロンが考え出したのではなく、その師ラオンジーウが授けたものかもしれなかった。
あるいは更にずっと前から・・・?
師や先師が導き出した結論と、若い弟子である自分たちの辿り着いた結論とが、見事に合致していたのである。
「円周を7で割ることはできない。
小数点以下、ずっと同じ数字が続いていく。
『正七角形』というものは理論上でしか描くことができないんだ。」
次に示されたページに描かれていたのは「宝石」のような煌(きらめ)く珠(たま)だった。
数えると7つあった。
「これは譬(たと)えだよ。
“生命”の奥底(おうてい)には、誰にも必ず『7つの宝聚(ほうじゅ)』が秘められている。
ただし、この図のように、何か美しいものが7つある、という意味じゃない。
“生命”から発(お)こる、最も尊極(そんごく)なる“一念”の姿を、『7つの宝聚(ほうじゅ)』という形で表しているんだ。」
身が震えるようだ。
そのような“一念”を、瞬時に発(お)こすことができるのだろうか。
「先生、これが“LIFE”なのですか・・・?」
「“LIFE”とは、瞬間瞬間に起こる“一念”を限りなく高めたものだ。
単発のようでもあるが、一波一波が“LIFE”そのものであるとも言える。
時々刻々と移り変わる戦況にあって、きみはいつでも同じ“一念”を起こせるか?」
少し考えてファラは答えた。
「・・・今のぼくにはできないと思います。」
「はっはっは、それでいいんだよ。
悲惨なる地獄絵図を見ては戦慄し、飢えたる鬼に出会えば身構える。
獰猛なる獣に遭えば強弱に左右され、争いを好む修羅に戦いを挑まれれば受けて立つか、臆(おく)して退(しりぞ)くか。
我が“生命”、いかなる縁に遭おうとも、“LIFE”の実現を願い、太刀を繰り出せるか、手を差し伸べられるか。」
「今までも、できる限りそうしてきたつもりです。
『長老の森』にどんな難敵・強敵がいても、“LIFE”を願う自身でありたいと思います。」
「よし、ならば“祈り”の中に、『7つの宝聚(ほうじゅ)』を持っていきなさい。
相手の“生命”にも、等しく尊貴なる“宝”があることを忘れまい。」
そう言って師は弟子の手を取り、頷き合って固い握手を交わした。