第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
「人々が“LIFE”を忘れ去った社会は、他者との対立を乗り越えられない。
利害関係で結びついた者以外は敵とみなす。
相手が滅びることこそが自らの利益と考え、やがて排除し合う。」
「現代にあっても、諸国は互いに利害関係を築こうとし、相手より優位に立つため必死になっています。」
「よく情勢を見てきたな。
それから、“LIFE”には、火・風・水・土、冷・熱・電・磁、の現象が含まれる。
では、“LIFE”に背くことは、現象面では何を意味する?」
本来、人間や動物といった“生命”を持つものと、自然界の現象は、ともに“LIFE”が目に見える形となって現れたものである。
ならば災害で多くの人が“生命”を失うのはどうしてなのか?
「アズ・ライマもまた一個の“生命体”であり、“生”と“死”の両側面を持つということではないでしょうか。」
「その通りだな。
“LIFE”の様相には必ず“グルガ(生滅)”がある。
元々“グルガ”は他者の“生命”を奪うことを意味しない。
殺戮に特化した形で用いられるから危険なのだ。」
まだ雲の切れ間から青空がのぞいているが、日は西に傾き始めていた。
「生死(しょうじ)の問題は常に考えていくべきだ。
その上で、“LIFE”に背くことは、火も風も水も土も、濁り乱れて、猛り狂うことを意味する。
人の心の乱れと国土の乱れは、決して切り離せないのだよ。」
ファラは、やはり全ての人に“LIFE”を伝えていかなければと思った。
一切の現象、一切の問題は、“LIFE”という観点に立って捉えていかなければ、一つとして解決しないだろう。
そこから派生して、ファラは次の質問をした。
「先生、ぼくの母は何と戦って“生命”を落としたのですか?
“生命(せいめい)”を賭してまで戦うべきものとは、何だったのでしょうか。」
シェブロンはじっと少年の目を見た。
LIFEの責任者として、いつかきちんと話さなければならない時が来ると思っていた。
ついにその時が来たのだ。
「きみのお母様のお名前は、『パ=ムヴィア=ナ』という。
カーサ=ゴ=スーダのお生まれだった。」
「はい。
外との交わりを嫌う少数民族の出でありながら、リザブーグ騎士の父と駆け落ちするように結婚し、LIFEの一員になったと聞きました。」
「きみが生まれた頃、このリザブーグ王国は一人の強大な力を持つ国王に支配されていた。
王は『ディ=ストゥラド』と呼ばれた。
世界で最も由緒ある騎士団の力によって覇を唱えた軍事国家リザブーグは、『ディ=ストゥラド』によって一夜で滅ぼされ、手中に収められてしまったのだ。」
一個の人間の力を超えた存在、「天」の力ともいうべき権勢者に出会うと、人は恐れ、打ち負かされ、屈服してしまう。
こうした力を総称して“権力”という。
他者を意のままに動かすことを以って事とする権力者が、敵対勢力以上に憎み、異常な執着心で加害する対象がある。
それは、従わない者、“権力”を恐れない者、である。