The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」

第 19 話
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「最後」という言葉が気になったが、その意味するところはすぐに分かるだろう。

シェブロンはフィヲに対して、サザナイアが練兵所に行ったようだから、そこで特訓に加わってくるようにと言った。

思えば何と一緒に過ごすことの少ない師弟だったろうか。
ファラはこの時とばかり、聞きたかったことを思い返していった。

まず一番の問題が口を衝いて出た。

「先生、ぼくたちの戦いに終わりはあるのでしょうか。」
「剣と剣、魔法と魔法で応酬することを戦いと呼ぶ場合がある。
そうした戦いならば、終わりは必ずある。」
「では、終わらない戦いがあるということですか?」
「人は新しく生まれては育ち、生きて、死んでゆく。
社会を構成する世代も次々に変わっていく。
新しい世代には新しい世代の問題や課題があるということだよ。」
「世代世代に“LIFE”の戦いがあるということですね。」
「そうだ。
人間も社会も、“LIFE”によって立つか、反“LIFE”によって立つか、どちらかしかない。
“LIFE”とは“生命”を貫く法則であるがゆえに、これに背けば何もかもうまくいかなくなる。」
「なぜ、世界には反“LIFE”勢力が存在し続けているのでしょうか。」
「昔、王法が栄えた時代に、“LIFE”を基(もとい)にすれば国家は末永く安泰であるとする説が広まった。
国王は“LIFE”を信じなかったが、敵対勢力を粛清するために“LIFE”を利用しようと考えた。」

ごく難しい話である。
ファラは整理しながら聞いた。

「しかし“LIFE”は、国王も市民も平等に尊貴であると教える。
国王にはその部分が邪魔だったのだ。
支配の道具に使えさえすればよかったのだよ。」

その話の内容は、リザブーグ王国、レボーヌ=ソォラ、そしてロマアヤの各国で、ファラ自身や仲間たちが直面した問題と重なり合って理解できた。

シェブロンは厳しい表情の中にも笑みを浮かべた。
すぐに真剣な表情に戻る。

「国王は支配を強めるため、“LIFE”思想を都合のいいように改変した。
すなわち、国王こそが“LIFE”の体現者であり、市民はひざまずいてこれを崇めるように、と。」

彼はそのまま話を続けた。

「万人が希求してやまない“LIFE”を、思想統制の道具に使ったのだ。
そして他国を蹂躙(じゅうりん)し、最強の軍事国家を作り上げた。」
「それがリザブーグ王国なのですか!?」
「過去にはそうだったのだ。
『封印の地ディスマ』を囲む5つの地点に塚を設け、古代魔法グルガを封じ、術士を粛清した。
敵がいなくなった王国は支配の絶頂期を迎えるが、やがて衰退していく。
“LIFE”という、唯一無二の信仰が世界から失われてしまったからだ。」

国家権力が介入、あるいは弾圧したことで人々の信仰が崩壊した時代。
アズ・ライマの歴史においても、ディスマの封印後、世界が再び混乱し始めた頃を「中世」と呼ぶ。

「私にも、若き日には師があった。
名を『ラオンジーウ』という。
中世以後、失われた“LIFE”を再興させ、もう一度世に広めようとする人々がいた。
師はその流れを汲(く)むかただったのだ。」

それでようやく分かってきた。
世界の歴史と「研究機関LIFE」の関わりが。

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