第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
「わたし、物心付く頃から、毎日朝と夜、おばあちゃんの所に行って、魔法の話を聞いていたの。
それから“LIFEの祈り”を教わったわ。
自身の胸の奥にある“LIFE”と、大宇宙の“LIFE”とを交流させる、大切な時間。」
「ぼくも父さんに教わった。
シェブロン先生に、知っているだろうって聞かれて、最初すごく驚いたんだ。」
「人の“一念”と“一念”が出会う時、どちらかが挫(くじ)けてしまっていても、もう一方が励ます力を持っていれば、必ず再起させることができる。
たとえ時間がかかっても。
それから、どちらかが自分の心に負けてしまって、相手のことまで引き摺り下ろそうとしている時、他方がその非を説いて、心の奥底に沈んでいる“向上の力”を信じ抜くことで、励起させることができる。
人によって、内なる上向きの力が押し潰されてしまうほど、過去の苦しみが重くのしかかっている場合もある。
だけどこちらが信じ抜き、励ます力を持ち続けることで、いつか後向きの力を越え、前へ進んでいくことができる。」
「どんな人にも“LIFE”があるんだ。
呼びかけていけば、必ず応える瞬間が来る。
その時、一緒になって、力強く飛び出していけばいい。」
二人は共に駆けた戦線で実際に目にしたことを確かめ合うように語っていた。
猛将のジシューやズンナークが味方となり、リルーとオオンもロマアヤに付いた。
卑怯なデッデムは部下を置いて逃げ去り、テンギに斬られてしまったが、その部下だったメッティワ、ラゼヌター、コダリヨンは立派にLIFEの戦士となった。
実際に剣を合わせたファラは、まさか、と思った時もある。
しかし生まれ変わった彼らの使命は真(まこと)に尊く、悪しき時代のことなど掘り返す気にもならない。
ファラとフィヲは、互いに、二人で戦わなければこれほどの結果は生まれなかっただろうと思っている。
一人では出し得ない力が、心を合わせていく時に現れるのだ。
もちろんファラとフィヲという組み合わせに限ったことではない。
大きな力が出る条件は、異なる人間が、同じ目的に立って祈り、行動し抜いていくところにある。
「時々刻々と変化する世界にあって、戦場にあって、その時々に求められる判断力は、経験の積み重ねでしか身に付かないでしょう。
理論や、誰かの話を聞いただけで、その通りにできるということはありません。
でもね、おばあちゃんは、まだ小さかった頃のわたしに魔法陣を書かせて、詠唱を教えてくれていたの。
もちろん、未修得の魔法文字を書いたところで、何も起こらなかったけれど、こうすれば、こうなる、と教えてくれたことで、実際に近いイメージができるようになっていったわ。
未知の現象を想像に描いているのではなく、真実を追い求めていく生き方を習慣付けてくれていた・・・。」
それはフィヲの天性でもあった。
実際、ヴェサは彼女に魔法陣を描けとは言わなかったのだ。
フィヲがヴェサの描く魔法陣を真似て、懸命に覚えようとしていたのである。
フィヲが“光”となり、ファラを連れて危機を脱したのも、元はといえばヴェサが彼女に“光”を教えていたからに他ならない。
ファラ自身はこの日オルブームへ向け出発する意思を変えなかったが、サザナイアの装備完成と飛翔のためにしばらくここに残して行くフィヲには、ヴェサとの時間を大切にしてほしいという思いが強くなっていた。