The story of "LIFE"

食事が早く済んだのか、ルアーズがアンバスを連れてＬＩＦＥ騎士団の練兵所へ行こうと階段を降りてきた。
サザナイアもさそわれて、一緒に行くことにした。

「相変わらず、力が有り余ってるなあ。」

ファラが皆のいる広間へ上がって行こうとすると、ヴェサの手が引いた。

もう一方の手を引くフィヲが、ヴェサを会議の場ではなく、部屋に連れて行こうとしているのだ。

「ファラくん、ゆっくりしましょう。
おばあちゃんの部屋へ。」

このように、時々ファラとフィヲの考えが違っている場合、ファラはいつもハッとしてフィヲに従った。
彼には見落としがちな細かな配慮が彼女の考えや行動には込められていた。

少し恥ずかしい気持ちになる。
だがファラはフィヲに感心して、ますます彼女のことを大切に思うのだった。

「さあ、おばあちゃん、敷居をまたいで。」
「ありがとうフィヲ。
お前はよく気が付くね。」

以前ならこんなやりとりもなかったのである。
ヴェサの足取りが心配になり出したのは、ロマアヤへ向けてフスカ港を発った頃からだ。

老婆の部屋は二人部屋だった。
誰かが用事を聞けるようにしたのだろう。

「おばあちゃん、今夜は私が一緒に寝るわ。」

そう言うと、ヴェサは懐かしそうに、遠くを見るように答えた。

「フィヲや、お前に世話はかけたくない。
誰か女中に来てもらおう。」
「いいえ、だって魔法のお話を聞かせてもらうんだもの。」

一瞬、淋しそうにするヴェサの表情が心に焼き付いた。

「それなら朝と晩、必ず話を聞きにおいで。
昼間はあの剣士のお嬢さんのお相手をしてくるんだよ。」

今ヴェサが浮かべた表情が何であったか、その同じ感情がフィヲの中にも起こって、共感となった。

フィヲが泣き出すといけないので、ヴェサはまた顔を皺くちゃにして笑いながら、両手で二人の背中を押すようにした。

「ファラや、一分一秒も無駄にできないのはお前たち二人の時間だろう。
あたしはもう十分に生き、伝え残すことは伝えた。
あと少しここにいて話ができる限り、与えられたこの“生命”を、一人でも多くのために使いきっていくよ。」

扉の外まで押し出されてしまった。
フィヲはヴェサと抱き合って心ゆくまで涙を流したい気持ちだったが、ヴェサがそれを許さなかった。

「ほら、行っておいで！
ヱイユを見殺しにするつもりではあるまい。
決して急げとは言わないよ。
お前たちが目の前のことしか見えていないようでは、シェブロン先生も心休まらないじゃないか。
世界を見渡せるようになれば大したものだが、それはタフツァに任せておくがいい。
もし、『長老の森』が枯れるようなことになれば、“ＬＩＦＥ”のエネルギーである『正の魔力』が弱まり、地上は悪魔たちに好都合な『負の魔力』によって満たされてしまうだろう。」

ある意味フィヲは単純なので、ヴェサに力を込めてこう言われると、居ても立ってもいられなくなってきた。

一方ファラは、ヴェサが自らフィヲとの間に起こる感傷的な気分を強い意志によって打ち破ってくれたのだと感じ、深く感謝してフィヲとともに頭を下げ、部屋を退出した。