第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
ヴェサとフィヲをつなぐ絆の強さに皆、心を打たれた。
ファラもナーズンもバミーナも、その場に立ったまま動けなかった。
サザナイアは対セト戦線のブイッド港で、ヴェサから魔法や“LIFE”戦術の話を聞いたことを鮮明に覚えていた。
ずいぶんと痩せてしまったように思われる。
半年も経っていないはずなのに。
ファラはフィヲとともにヴェサの体を支えるようにし、ナーズンとバミーナには新しく割り振られた部屋でしばらくゆっくりしていてほしいと言った。
「森へはいつ行くんだ?」
歩調がごくゆっくりである。
ファラは手を引きながら驚いた。
フィヲは自然とその速さに合わせていた。
すぐに答えたかったが、気が付いたように、ファラに聞いた。
「ねえ、おばあちゃんが来るって知って、私を後から来させるようにしたんでしょ?」
ヴェサがいるのであまりフィヲとくっついているわけにいかない。
それで、しっかりと意思を込めて言った。
「きみのために来てくださったんだもの、一分一秒無駄にしないで、決戦に備えて、これからはヴェサさんの分身となって戦ってほしい。」
「・・・お前一人でか、どうやって行くんだい?」
そう言ったヴェサは、見たこともないくらい、顔を皺(しわ)くちゃにして笑っていた。
馬車でリザブーグへ到着後、何度も立ち止まって休みながら、やっとのことで階段を昇(のぼ)りきった。
息を切らして広間に入ったものの、見回してフィヲがいないことに落胆していると、シェブロンが駆けて来てくれた。
彼はヴェサにひざまずき、最上級の礼を取った。
「上陸の折、わたくし一人でも引き返してあなたのご功労に報いるべきでした。
どうか息子と思って、何でもおっしゃってください。」
しばらくヴェサは恐縮していたが、地べたに両手を着いて返礼した。
「シェブロンさん、いや、シェブロン先生!
これまでの無礼をお許しくだされ。
この婆(ばば)はあなた様のおかげで今こうして明日の希望を持って生きることができます。
フィヲとはすれ違ってしまったが、なにとぞお役に立たせていただきたい・・・!!」
シェブロンはヴェサの両手を取り、ともにゆっくりと起き上がった。
そして少年に戻ったような瞳の輝きで、老婆の目を見て言った。
「フィヲはまだ発っておりません。
じきに戻ってきますから、どうかご一緒に、昼食になさってください。」
それを聞いたヴェサは、急に元気になった。
周囲が見て驚き、心配した。
「ヴェサ様、ご無理をなさらないで!
フィヲさんの方から来てくださいますよ。」
「なにを言う!
あの子はすでに、あたしの孫代わりではない。
ファラと二人で世界の民衆のために戦っているんじゃないか。
誰が何と言おうと、あたしが迎えに行く!!」
こうなっては聞かないのだ。
シェブロンも、ナーズン、バミーナもよく知っていた。
しかし、強情を張った老婆の表情は、実に何歳も若返ったように思われた。