第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
ファラとフィヲは一緒に防具屋に入った。
スヰフォスがスケッチしたような盾は現物としてはなく、新たな注文として鍛冶屋に渡されることになった。
「サザナイア、どんな剣士も最初は木でできた剣を振るうように、お前の体格、お前の戦法にぴったりの盾がすぐ手に入るとは限らない。」
そう言って壁にかかった盾を示した。
「・・・ここに3種類の盾がある。
わしが見るに、盾の扱いを覚える上で恰好の素材、形状、重量の要件を満たしていると思う。
それぞれ手に取って、一番使いやすいものを選びなさい。」
まず真ん中の盾を取った。
バンドを外して腕に固定し、柄を握ってみる。
「視界は悪くない。
重さも、苦にならない・・・。」
材質・作りともに同じ3つの盾は、使う者の体の大きさによって大・中・小のサイズを表していた。
「では、剣を抜きなさい。」
街中で剣を鞘(さや)から出すなど、普段はしないことである。
だが言われた通りに構えてみた。
鍛冶屋は自分の打った剣が、毎日すみずみまで手入れされている様子を見て、うれしく、そして誇らしい気持ちになった。
心底(しんそこ)から気に入って愛用してもらえていることが確信できたからだ。
両手で握る剣を片手で持った重量に、彼女は思わず左の手を添えた。
「どうだ、それで戦えるか?」
なんというアンバランスだろう。
盾が邪魔で振りにも行けない。
防御にもならない。
「やっぱり、小さい方がいいわね・・・。」
盾の返し方に几帳面な性格が表われていた。
剣を一度腰から提げた鞘に収め、両手で壁にかけ直す。
主人は武器と防具を鍛錬して作り出す鍛冶屋であるとともに、自ら作り上げた装備品を販売する店屋でもある。
普段から自分の製品を愛用してくれる戦士には、修理の際など代用品の貸し出しも辞さない彼だが、サザナイアが盾を商品として大事に扱ってくれたことに感謝した。
日常の中での気品は、戦場での剣の扱いにもそのまま現れているに違いない。
物を大事にできる人だからこそ、対戦相手の“生命”をも大事に守り抜いて戦うことができるのだ。
小さい盾は手の甲よりも出ず、両手で剣を握っても左前の視界を遮らなかった。
「これなら、私の所持金で・・・。」
スヰフォスは本当は買ってやりたい気持ちだったが、自分で出させるのも訓練だと思い直した。
ところが主人は言う。
「その盾が壊れるまで使ってきてくれ。
今度、新しい盾を取りに来る時、感想を聞かせてほしい。
両肘と両膝の強化防具は体術に使う物がほとんど売れないでいるから差し上げよう。
俺からの感謝の気持ちだ。」
彼はそう言って照れて見せた。