The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」

第 12 話
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少女ロワムに連れられてその母親に会ったフィヲは、まず新しい魔導着のお礼を言った。

「細かい注文まで全てお願いしていた通りに仕上げていただきました。
本当にありがとうございます。」

女手一つでロワムを育て、洋裁屋を営むこの女性は、夕べ仕上げたばかりの服を着たフィヲを見た時、両手を合わせて感激していた。

「わたしが縫っている間、娘はずっとあなたのことを話していたの。
お預かりした材料から感じたもの、そしてロワムがあなたに感じたものは、あなたの内なる限りない魔力だったんだわ。」

自分で言わないことを母親に言われてしまったので、ロワムは後ろに隠れ、ひどく恥ずかしそうにした。

「私一人で身についたものはありません。
師に見出され、伸ばしていただき、多くの仲間に護られながら、実戦の中で教わったのです。
この魔導着に身を包んでいると、生きとし生きる全ての“生命”の声が集まってくるのを感じます。
内から外から力が漲ってきて、限りある魔力を無限に増幅させてくれるようなのです。
お母さんとロワムちゃんのお心も、しっかりと込められています。」

フィヲはそう言って涙ぐんだ。

ロワムもベソをかいた。
母親はハンカチで頬を押さえた。

「おねえちゃん・・・!!」

ちょうどそこへファラが顔をのぞかせた。

「あらっ、待っててくれればいいのに。
・・・すぐ行くわ。」
「ああっ、おねえちゃんを連れていく気ね!?」

間が悪かったかと、やや狼狽して辞そうとしたファラを、ロワムの母親が引き止めた。

「この間は、危ないところを守っていただいたそうで・・・。」
「あ、いえっ、ぼくを狙って、おかしな連中が集まってきてしまったんです。
これからはLIFE騎士団がリザブーグの街を護ります。
ぼくは・・・。」

そう言って、フィヲの顔をちらっと見た。

「ねえ、お母様。
私には生まれつき、父も母もいませんでした。
ロワムちゃんとは、ずっと姉妹と思っていていいですか・・・。」
「ええもちろん、フィヲさん・・・。」

フィヲが会いたかった母親にやっと会えたように感極まってしまったので、3人はしばらく抱き合って泣いた。

幼少時に母をなくし、かすかな記憶しか残っていないファラも、思わず涙をこらえられなくなった。
先に洋裁屋を後にすると、すぐには武器屋へも戻れなかったので、街路の外れで声を出して泣いた。

フィヲはやっと感情がおさまって二人に告げた。

「私とファラくんは今日、オルブーム大陸にある『長老の森』へ出発するんです。
たくさんの悪魔が森に集まっているらしいの。」

ロワムが首を振りながら言う。

「おねえちゃんが行くことないわ!
もっと強そうな人に行ってもらって!!」

フィヲは最後の涙を拭いながら、優しく微笑んだ。

「あなたと私は姉妹なのよ。
私にはお父さんがいなかったけれど、お城にいらっしゃるシェブロン先生がお父さんの代わりになってくださったの。
だからあなたにとっても、先生がお父さんでしょう。」
「うん。」

二人だけで話した時、ロワムも父親の顔を覚えていないとフィヲは聞いていたのだ。

「シェブロン先生は、世界で最強の力が、私たちの“胸の奥”にあると教えてくださったわ。
それを“LIFE”というの。」
「らいふ?」
「そう。
ロワムの中にも、ずっと前からあるの。」
「わたしの中にも・・・?」
「お母さんの中にも。
ファラくんの中にも。
だからどんなに悪魔がたくさんいても、絶対に負けることはないんだから。」

すぐには分からない様子だったが、フィヲは店の玄関を出ながら、ロワムの方へ正面で向き直って重ねて言った。

「いつでもいいわ。
お天気のいい日に、お城へ行ってごらんなさい。
私の大切な妹が先生を訪ねて来る、って、みんなに話しておくからね。」

別れ際にさびしさを残さぬよう、フィヲは精一杯にロワムを励ました。

誰の胸奥にも存在して、いつか目覚めるまでは気付かずにいる“LIFE”を、しっかりと見据えて声をかけること、呼びかけることこそ、一個の“生命”における最初の、“LIFE”との交流を実現させるのである。

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