第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
「おう主人、仕事中にすまんな。
サザナイアは来ておらんか。」
「今、防具を見てますよ。」
「そうか、ではわしも失礼して・・・。」
スヰフォスが外から防具屋に入ったので、鍛冶屋も一緒に行った。
ファラはフィヲが気になって、同じ通りにある洋裁屋の方まで出てみた。
「あら、先生、いらしたんですね。」
彼女は小型の丸盾を手に取っていたが、しっくりこないらしかった。
「その盾を実際に使うとしたら、お前の戦法の上で利点と欠点はどうなる?」
しばらく考えた。
即答はできなかった。
「盾で受けた後、攻撃に出るのが遅くなります。」
「ふむ、盾を押し込んで攻める戦法もあるが。」
「私は剣術中心で。
盾は・・・、なんというか、相手の攻撃を受け止めて、こちらの仕掛けるタイミングを作る感じです。」
スヰフォスはだんだんにやけてきた。
教え子と戦法の話をするのが何よりも楽しいらしい。
「そうだろう。
LIFE騎士団のヌザルムを知っているか?
あいつは大きな盾を2つ持ち、フルアーム・ナックルで敵の武器を掴み取り、拳で打ち倒す。
盾もいいが、フルアーム・ナックルもいいぞ。」
「フルアーム・・・。」
サザナイアは自分の手を見つめ、握ったり開いたりしている。
「・・・受け止められないわ、きっと。」
我が意を得たりと言わんばかりに、スヰフォスは声を上げて笑った。
店の主人も笑った。
「もう!
それなら、私にぴったりの盾を教えてくださればいいじゃないですか!」
幼少時から知っている師であるだけに、サザナイアにも遠慮がない。
スヰフォスは可愛い教え子のプライドを傷つけてはいけないと、真剣になって身を構えた。
サザナイアは、ハッとした。
「お前の動きはこうだ。」
確かに、自分の剣の構えと同じだった。
そういえばビオムにいた頃、スヰフォスは「鏡」を見て自らの動作を整えていくよう、かなりしつこく指導したものだ。
『そう、目の前に同等の相手がいるなら引き付けて振り抜くわ。』
右を睨んだスヰフォスが、軽くかわして肘からの突きに出た。
『エルボー・タックル!?
あれは私の動きじゃない・・・。』
今度は左を睨む。
ここで盾の出番である。
「あ!!」
やや笑って、スヰフォスは相手の勢いのまま盾で受けて引き、右からの強撃を繰り出す動作を見せた。
「これでいいんじゃないか。
幾らでも応用できるだろう。」
「は、はい・・・。」
「主人よ、サザナイアの腕に重しをかねて金属の肘当てを着けてやりたい。
防御よりも攻撃性能を重視してな。」
聞きながら主人はメモに書き取っていた。
「その長剣を片手で自在に扱えるようにするのだ。
もちろん、決める時は両手で打っていい。」
「はい!」
「ふっふっふ、それからちと変わった形状だがな、先端が二つに分かれたやや短い剣を新調してやってほしいのだ。
相手や状況に応じて剣を使い分け、時には両手に1本ずつ持てるように技を磨いていけ。
・・・盾は、こんな具合がいいな。」
そう言って主人からメモとペンを借り、さらさらと自らスケッチしていった。