第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
続いて、メレナティレのトーハと通信がつながった。
『聞こえるか、トーハだ。』
「タフツァです。
そちらはいかがですか?」
『各国の戦士が本当によく守り、戦ってくれている。』
「まだ敵対勢力はありますか?」
『森に潜伏していたが、今日明日にも決着できるだろう。
メレナティレ城の地下牢は旧王国兵で溢れとる。』
「彼らを一度リザブーグへ連行しましょう。
こちらから部隊を出します。」
『それは助かる。
先日、オルブームの南方を治めるワリヒ族に使者を立てた。
政変の通知と、協力の要請だ。』
シェブロンが立って通信機に近付いた。
「トーハさん、あなたがあってこそ、メレナティレを解放できました。
本当にありがとう。」
『シェブロン博士、よくぞご無事で・・・。』
「はい、教え子たちが断崖の孤島から助け出してくれたのです。」
『北に群がる魔族の一団はこちらで引き受けましょう。
リザブーグへは行かせません。』
「どうかくれぐれも犠牲を出さぬよう、お願いします。
悪魔たちの狙いは、直接はリザブーグ城かもしれませんが、各地に分散して攻めてくることが想定されます。
それで、主要な都市や集落を中心に、守りを固める布陣を整えているところです。」
『すると、いよいよ人手が足りないでしょう。
技師と味方の騎士たちだけで、なんとか頑張ってみますが。』
シェブロンはザンダを呼んだ。
「トーハさん、明日までにザンダをそちらへ行かせます。
オルブームの部族を味方につけながら、北へ攻めて『長老の森』を奪い返していただけませんか。
物資の支援はこちらでいたしますから。」
『うむ、心強い。
守るよりも、攻めていくのがいいだろう。』
「ファラくんとフィヲが空路、森に入る予定です。
ヱイユとともに戦ってもらいますので、4つの部族との連携をお願いします。」
『分かりました。
わしは通信機の近くにおります。
いつでもお声をおかけください。』
ザンダはやや焦り気味だ。
「先生!
メレナティレから『長老の森』まで、原住民の領地を通って行くなんて、日がかかりすぎます。
・・・なあファラくん、10日もかかったらどうする!?」
ファラは笑って答えた。
「きみがベリオングさんたちを連れて加勢してくれたら、そりゃあ心強いけど、ワリヒ族をはじめ、各部族もきっと不安をかかえていることだろう。
今回のきみの役目は、メレナティレを守りながら、4つの部族とともに悪魔と戦う連帯を築くことなんだよ。
ロマアヤ国が侵略を行わないことは歴史が証明済みじゃないか。
他の誰が行くよりもいいと思う。」
ザンダはしばらく考え込んでいた。
広間の壁に掲げられた世界地図に見入りながら。
フィヲが近くに寄って、少年の頭をポンと叩いた。
「森のことは私に任せて。
あなたはゼオヌール11世として、王者らしい振る舞いをしていらっしゃい。
族長さんたちへのご挨拶がまだでしょう?」
「なんだい、おねえちゃん!
これが『王者』に対するやり方か!?」
リザブーグ騎士もロマアヤの部下たちも、ドッと笑った。
ザンダは一瞬カッとなったが、すぐに照れ笑いに変わった。
通信を終えたタフツァが皆に向けて言う。
「テンギは僕が引き受けます。
安心して戦ってください。
しばらく各別に作戦会議をしていただけませんか。」
これを聞いてシェブロンは頼もしそうにタフツァを見遣(みや)り、強く頷いて見せた。