第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
朝の会議のため広間へ入ってみると、シェブロンが一人佇んでいた。
正面にファラとフィヲの新しい装備が置かれている。
先までタフツァとノイもいたのだが、朝食をとってくるように言われて下がった。
「おはよう、眠れたかい?」
「はい!
これ、発注していた鎧です。
・・・いかがでしょうか。」
「とてもいい。
これほどの大無刃刀を扱えるとは、LIFE始まって以来の剛剣士だよ。」
二人が起き出した頃、すでに武器・防具屋が車で運び込んでくれたという。
「まだだいぶある。
皆が来る前に、身につけておいで。」
ファラの装備は重いため備え付けの車を押し、フィヲは台座にかけてあったものを両手で抱えて、一度部屋に戻った。
行き違って下の階からスヰフォスが来た。
「リザブーグは騎士の国。
鍛冶屋の腕前も他国の上を行きます。
あれほどの名品はなかなかお目にかかれません。」
「高価なものを、かたじけない・・・。」
「はっはっは、金額は大したものではありません。
ファラの理想と武器屋の理想が合わさってできた代物です。
他の剣士が持ったとして、価値の10分の1も発揮できますまい。」
「フィヲの魔導着も、すばらしい出来だった。」
「二人で魔法を込めたそうです。
ファラの剣と鎧にも、フィヲさんの魔法が込められているのだとか。」
「特にフィヲは、ファラくんとパーティを組むまで、潜在力が現れてこなかったのです。
計り知れない力を秘めていると、私もヴェサさんも見ていましたが、ファラくんではなく、まさかフィヲが“LIFE”を実現させたとは・・・。」
食事の早いノイが戻ってきた。
「きみも妻子を持ったのだから、自分の体を大切にしなくてはいけない。
睡眠と食事の時間は十分にとるんだ。」
「は、はい・・・。」
スヰフォスがノイに歩み寄って言った。
「あなたという鑑(かがみ)なくして、今のLIFE騎士団はない。
これからは後輩の育成にご尽力いただけまいか。」
そう言われると、彼もまだ剣を握って戦いたいのだ。
シェブロンはノイの心をよく分かっている。
その上で、ルング=ダ=エフサを発つ時にも念を押した。
『必ず生きて家族の元へ帰るのだ』、と。
「心配するな、人には時によって役割があるものだ。
今きみにしかできない大役を引き受けてもらう。
最後までLIFEの護衛騎士として生きるんだよ。」
40近い年齢となり、若手の活躍も目覚しい。
彼らの前へ躍り出て、最も危険な場所を守れるかといえば、自信がなくなってきていた。
本心では、「まだ戦いたい」、「たとえ力が及ばずとも、師の身代わりとなって死にたい」、という古い騎士の願いが断ち切れずにいる。
シェブロンはそうした心の迷いをも見抜いていた。
「もし、過去の戦闘においてきみが死んでいれば、直後には私も死んでいただろう。
今こうして私が生きているのは、きみが生きているからに他ならないのだ。
主従は共に戦い、共に死にゆく定めともいえる。
生き抜くことをもってLIFEを護るという戦いを、どうか貫いてもらいたい。
それでこそ、LIFE騎士の生きざまを後輩たちに伝え残せるじゃないか。」