第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 07 節「七宝(しちほう)身に具して」
決戦の朝を迎えた。
ファラとフィヲは別々の部屋で休んだが、強い絆に結び合わされて、何物にも心乱されることなくよく眠った。
世界を覆い尽くそうとする悪魔たちでさえも、彼らの夢の中にまで入り込むことはできなかったのである。
外はまだ薄暗い。
寝台の上に体を起こし、大きく伸びをしたファラは、急ぐでもなく、気を緩めるでもなく、身支度を整えていった。
屋上で彼女が待っている。
午前中、早い時間で発注した装備品が届けられる予定だ。
彼は魔法使いだった頃の衣服にブーツを履いて階段を登っていった。
風がやや強い日だった。
鎧を身に着けていれば足音はよく響く。
だが厚い布製のブーツではほとんど音が鳴らない。
すぐにフィヲと目が合った。
彼女も、初めて会った時と同じ、魔法使いの服を着ていた。
「おはよう、ファラくん。」
「うん、おはよう。」
「疲れはとれたかしら。」
「全回に近いと思うよ。」
フィヲが手を差し出したので、ファラはしっかりと握って、屋上へ出る。
「決めて、くれた・・・?」
やや伏し目がちにフィヲが尋ねた。
ファラはすぐに答えることをせず、フィヲの両手を引いて正面に向き合うようにした。
「ぼくと一緒に『長老の森』へ行ってください・・・!!」
「ええ、よろこんで。」
ふいに抱き寄せられたので、フィヲは小さな悲鳴を上げた。
ファラは嬉しくなって彼女の背中を叩いた。
それから二人は東に面して、欄干にもたれながら待っていた。
寄り添い気味に立つフィヲを、ファラは脇腹に触れるなどしてからかう。
「もう!
そんなことで戦えるの!?」
フィヲは怒って見せたが、ファラが気をそらせて指をさした。
「ミルゼオの方だよ。
フスカの、港の先、海から、ほら陽が昇る・・・。」
金色に輝いた二人は大きく呼吸して、日が水平線を離れるまでそこにいた。
片方の手と手をつなぎ、もう一方の手を翳(かざ)しながら。