第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
空中戦はエネルギーを放出しての上昇と、開放しての下降(落下)が基本となる。
ファラはすでに、ピタリと止って滞空できるようになっていた。
落ちないということは、エネルギーを放出し続けているのだ。
つまり、絶えず消耗することを意味する。
ヱイユでさえ、魔法で浮かび続けるよりは、元々翼を持っているアーダの姿で羽ばたくのである。
ファラは地上で戦うのと同じように、縦横に剣を振るった。
魔獣は落ち、悪魔は消え去った。
そして彼の一撃一撃にはテティムル(吸収)が込められていた。
一方フィヲは、滞空を維持するためにはヒーリングを用いる。
ファラも大地や大気からエネルギーを補充する術(すべ)は修得していたが、この時すでに失っており、元々は戦う時に戦い、休む時に休むというスタイルだった。
「真剣勝負」という言葉があるように、剣と剣の戦いともなれば、小手先の戦法は実際考えにくい。
その点、攻撃も防御もサポートも魔法だけでこなすフィヲは器用といえる。
ファラがもし魔法を失うことなく、魔法使いとして修行を続けていたなら同様な力を持ったかもしれない。
だがファラはやはり魔法においても、攻撃する時は攻撃し、防ぐ時は防ぎ、回復する時は回復しただろう。
同時に幾つものことに気が回るのは、フィヲの特長であるとともに女性の特性かもしれない。
攻撃かつ吸収する現在の戦い方がファラにはちょうど良かったのである。
この時フィヲは巨大な“LIFE”のドームを形成していた。
維持するために力を消費し続けている。
と同時に大地からヒーリングを受けていた。
何かの拍子に、たとえば打撃を受けるなどした場合に、発動中の魔法が途切れると、効力は消え去ってしまう。
上空から敵を追い落として転戦しているファラと、覚えたばかりの滑走で地上を舞うように一掃していくサザナイア。
その同じ戦場にフィヲも立っている。
下から見ていると、ファラの動きの切れは実にいい。
フィヲは、今すぐ供給するのは早いと思った。
あと少しファラが消耗したところからヒーリングをかけてやるべきだ。
そうでなければ、大地からもらったかけがえのない魔法エネルギーを無駄にしてしまうからだ。
供給量が余っているからといって、必要以上の威力で敵を撃退することをファラもフィヲも好まなかった。
何物も無駄にしない、犠牲にしないのが“LIFE”戦術の基本である。
ふと見ると、サザナイアが敵の隙をとらえて繰り出した大振りが、他の敵からの妨害によって外れ、背後を狙われるというところだった。
「いけない、サザナイアさん・・・!!」
フィヲの叫び声に、ファラは振り向いた。
交戦中の悪魔がとどめを免れた。
フィヲがサザナイアの敵の身動きを封じ、ファラが助けに降りて敵との間に割って入った。
しかしファラの背後もまた狙われていた。
フィヲは滑走して二人の側へ駆け寄り叫んだ。
「二人ともしばらく目を閉じて!
両手で覆っていてッ!!」