第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
冷たい霧が立ち込めてきた。
ファラとサザナイアは体が熱くなりやすく、少しの寒さなど問題にならなかったが、フィヲは震えで体がこわばってしまう。
「森の様子がおかしいわ。
リザブーグ周辺で、秋の初めにここまで冷え込むことはない・・・。」
異常現象に驚くよりも早く、魔力の流れに変化が起きたことをファラとフィヲは察知していた。
「まずいな、サザナイアさん、テンギはあとどれくらいですか?」
「近いの。
・・・ほら、あの地面が掘り返っている所っ!!」
「あれか・・・!!
二人とも、ここにいて。」
サザナイアはテンギが眠る穴を、フィヲは上空を、ファラは二人と背中合わせに今来た方向を凝視する。
「いけない、竜たちが・・・!!」
「ああ、じきに魔人も来るぞ。」
「じゃあテンギも!?」
ファラがフィヲの耳元に寄って小声で何か言った。
彼女は少し顔を赤らめて頷き、ファラと替わって後ろを見た。
ファラがテンギのいる穴の方へ駆け出す。
同時にフィヲは、サザナイアの手を握ってロニネを張った。
「フィヲちゃん!?」
「少し、待ってくださいね。
彼から合図があるまでは・・・。」
少年が武器屋に借りたままの大剣を真上に掲げて、月光の力を集める・・・。
光の輪が二重になって、キラリとフィヲたちの目にも飛び込んだ。
ふわっとファラが飛んで、真っ逆さまに穴へ落ちる。
テンギを恐れていたサザナイアにしてみれば、目を覆(おお)いたくなる光景だ。
だが次の瞬間、円筒状の連続スペクトルが、まるで柱のように上空までそそり立った。
七色の光はやがて円錐状に、更には水平に、円形に広がっていった。
木の上に潜んでいた翼人たち、空を舞っていた翼竜たちが、次々と地面へ落下してくる。
「ひいっ・・・!!」
「大丈夫、しばらく動けないはずよ。」
「て、テンギは!?」
フィヲも横目でちらっと見る。
ファラが穴より手前に立っている。
「よかった!
これで闇の一族はテンギに近寄れない・・・!!」
光は魔法陣となり、穴の上に浮かんだ。
七色の光は発散してしまった。
「さあ、来い・・・、一人も逃がしはしないぞ!!」