第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
南側に、カーブを描いて旧リザブーグ王国時代の外壁が見える。
国境を表すこの壁は、北へ行くにつれて山の斜面に埋もれ、境目がはっきりしなくなっていた。
大声で呼べば警備中の兵士が答えるだろう。
見上げると、月に雲がかかり始めている。
北からの風が木々の間をすり抜けてきた。
「お天気が崩れるのかしら、雨が降りそう・・・。」
「うん・・・。
フィヲ、傘を取りに戻るかい?」
「いいえ。
自然現象を味方につけていくくらいでないと。」
その時、ザッザッザ、という走る足音とともに、身に着けた鎧が擦れ合って鳴る金属の音が近付いてきた。
「走ってる・・・。
どなたですかー??」
「はあっ、はあっ、ファラくん、ごめん・・・!!」
ファラはすぐにサザナイアと分かって安心したが、フィヲは駆けていって手を取った。
「サザナイアさん、ご無事ですか!?」
「ええ・・・。
私、ミルゼオ国に入ってしまっていたみたい。」
相手の状態を第一に気遣うフィヲの姿を見て、ファラも急ぎ駆け寄った。
「本来ならばぼくが最後まで森に残るべきでした・・・。
この先に敵はいましたか?」
「そうなの・・・。
これを。」
巡回機から取り出したデータチップを手渡した後、しばらくは呼吸を整えなければ話ができないらしい。
涼しくなった夜分に、汗が流れるほどだった。
「メレナティレの紋様が入っている。
どれくらいの機体ですか?」
サザナイアは少し笑って、手振りで小さい機体であることを示した。
「探索機が、国境の向こうにまで入っていたとは・・・。」
「サザナイアさん、汗が冷えてしまう。
これ、上に羽織ってください。」
フィヲは、ファラにかけてもらったマントをサザナイアに着せてあげた。
「ありがとう・・・。
実はファラくん、この先に地面の抉(えぐ)られた跡があって、・・・その中に、テンギが眠っているようなの。」
「テンギ!?
今、気を失って?」
「呼吸はしていました。
起き上がれる状態かどうかは・・・。」
ファラがすぐに決めかねている様子だったので、フィヲが言った。
「見に行きましょう。
一時的に封じ込めてしまってもいいわ。」
テンギと聞いて、とっさに激しい戦闘を覚悟したファラだったが、フィヲが冷静なので落ち着くことができた。
捕縛して城へ運ぶにも、まずは危険を取り除いておかなければならない。