第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
窓から月明かりが差している。
13日目の月は丸く大きかったが、ファラにはやや赤みがかって見えた。
フィヲは気持ちの強さでファラを支え、守ってきた。
それでも今日一日を森で戦い続け、ほとんど休まなかったために疲れていたに違いない。
ファラに抱かれたまま、うとうとと眠りかけている。
彼は起こさぬようにそっと手を伸ばし、前の小窓を開けた。
「少し速度を落としてください。」
ノスタムが横を向き、目を細めて笑った。
月が赤く思えたのは気のせいだったろうか。
黄色い光は優しくノスタムの横顔を照らして、老いた皺(しわ)を映し出ていた。
これまで妻子を持たずにいたのか。
そういえば、シェブロン博士は妻帯していないのか・・・?
フィヲが目を覚ました。
「私、こんな時に・・・。」
肩が寒そうだったので、ファラがマントをかけてくれていた。
「休める時に休まなくちゃ。
森は静かになったね。」
少女の身には確かに寒かったのだろう。
フィヲはマントを引っ張って、ファラにもかかるようにし、まだ温もりから出られない様子で窓の外を見た。
「降りてみよう。」
ノスタムは前に立ってカンテラを掲げた。
ファラは周囲を見回し、フィヲは耳を澄ます。
ルアーズが、サザナイアの向かった方角として教えてくれたおおよその道に、城からまっすぐ走らせてきた。
「ここらで火を焚いて休みましょうか。」
だがフィヲを連れて行ってしまえばノスタムが一人になり、心配だ。
もう少し行けば警備兵たちに会えるだろう。
馬車を引いてしばらく移動した所で、休憩中の騎士3人を見つけたので、ファラは声をかけた。
「みんな、警備ありがとう。
変わったことはあるかい?」
「おおファラ殿!
いいえ、タヌキが出たくらいで。」
ミルゼオ国の山々から流れてくる下流の河原近く、騎士たちの休憩場所にノスタムを合流させて、ファラとフィヲはサザナイアを探しに行くことにした。
「乗せていただき助かりました。
どこまで行くか分かりませんので、このことをお城へ伝えてください。」