第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
速度を落としながら馬車が走り出した。
初秋とはいえ日没後は涼しくなるので、外気を防ぐ4人掛けの箱馬車である。
「ファラくん、メンバーはもう決めた?」
斜め向かいに座ったフィヲが、前に屈み込んで下を向いているファラに優しい調子で声をかけた。
「いや・・・。」
心底悩んでいるらしい。
「メレナティレで悪魔たちと戦ったわね。
『長老の森』の上空で戦うことになるのかしら・・・。」
ファラが何も答えないので沈黙が続いた。
「今は誰か一人が抱え込まなくても、頼もしい仲間が大勢いるんだもの。
リザブーグのことも、メレナティレのことも、ミナリィ港のことも任せて、私たちはオルブームのことを考えましょう。」
「ああ・・・。」
これまでなかったことだが、ファラがずっと伏し目がちなのである。
「ロマアヤのこともザンダに任せていいと思うの。
そうしたら、結局、私たちだけだね。」
ファラが顔を上げた。
ずっと、そのことを悩んでいたのだ。
ファラとフィヲの二人だけで「長老の森」へ行かなければならないのか。
現地にはヱイユもいる。
しかし、どんなにヱイユが強いと言っても、フィヲの支えがあるとしても、並み居る強敵を引き受けることなどできるだろうか。
「ぼくたちは、森から悪魔の大群を追い払えばいいのかな・・・。」
「そう。
無理に倒さなくていいわ。
世界にとって大切な場所だから、彼らの好き勝手にさせておくことはできない。」
「あいつらに向けて、何度も“LIFE”の魔法陣を撃ち込んだ。
だけど誰も心を入れ変えたりはしない・・・。
本当に、どうすればいいんだ・・・!!」
当然フィヲにも答えなど見出せなかったが、彼女には今回の件で一つだけ信じていることがあった。
それはまだ実現したわけではない。
確証と言えるものでもない。
フィヲはただ信じているのだ。
「“生命”って、戦うことなしに存在したことは一度もなかったと思うの。
“大宇宙”の“生命”が、人間にとって“永遠”と思われるほど長く続いてきたとして、過去にも、未来にも、“生命”が『反“LIFE”勢力』との闘争を終えることなんて、きっとないんだわ。」
彼女は無邪気に笑った。
「戦い続けることは苦しいよ。
いつかいい時代が来ると信じているから戦えるのに・・・。」
フィヲは、こうしたファラの弱音を聞くと、どうしても守ってあげなければという本能に駆られる。
同時に、自分が必要とされているならば、まだ何倍もの力が出る感じがした。
「どこまで行ったら終わりです、なんて、分からないから面白いじゃない。
あなたは一心に、私を連れて、どこまでも戦い進んでいくことを楽しんでほしいの。
一緒にいられること、一緒に戦えることを、もっともっと、感謝していきましょうよ。」
自然とファラの表情がほころんだ。
フィヲは興奮気味にファラの手を引っ張って、頬と頬をくっつけ、隣の席に移った。
そしてしばらく、強く抱き合っていた。