第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
ファラはここで森へ出ることを許された。
ルアーズたちの話で、サザナイアが向かった方角だけは予測がつく。
彼は、フィヲが来るのを止めなかったが、ザンダも出ようとしたので言った。
「大丈夫、すぐ戻るよ。
さっき言われた通り、きみ自身の動きを決めていてほしい。」
少年は黙って頷く。
シェブロンが部屋の外まで来てくれた。
「ファラ君、どの方向へ行く?」
「東です。
ミルゼオ国境付近へ。」
「それなら馬車を頼みなさい。
さっきノスタムさんに会ってきたから。」
フィヲは、ファラが心配ごとを打ち明けないので、自分のことのように、師に告げようとした。
「先生、ファラくんの魔法が・・・。」
そう言いかけて、すぐに言葉が詰まってしまった。
シェブロンはファラの手を取ってじっと見た。
ファラは師と背丈が同じくらいになっていた。
それからシェブロンはファラの目を見て言った。
「よく完成させたな・・・。
すべてきみのおかげだよ。」
じわりと涙が滲んだ。
「先生・・・!!
一つだけ教えてください。
なぜ、ぼくの魔法がテンギに宿るのでしょうか・・・。」
苦しい質問だった。
やっとのことで言葉にできたのである。
「きみは発動できなくなっているだけで、魔法を失ってはいない。
それからわたしが思うに、テンギはきみの魔法を得たわけではない。
テンギがきみの発動できなくなった魔法を操っているとも言えるし、実はそれは別の術士のしわざだろう。」
フィヲはすぐに思い当たって声に出した。
「ホッシュタス・・・!!」
「そうだな。
昔、悪魔結社マーラにいたホッシュタスは、セトへ渡って戦乱を煽り立て、権力を傘に着て暗躍し続けていたのだ。
奴は名の知れた『人心使い』。
きみを動揺させることが目的であるに違いない。」
そう言われて初めて分かった。
気持ちがだいぶ楽になる。
「また魔法を撃てるようになるでしょうか・・・。」
「あまり現象にとらわれてはいけない。
わたしもあのルング=ダ=エフサでは魔法が使えなかった。
実際には現象が起きる前に、エネルギーが星へと還っていってしまうんだよ。
今は割りきることが肝要だ。
敵の術中にはまるな。
魔法が必要ならば、一太刀の剣閃の中に、しっかりと“一念”を込めて撃っていきなさい。
前に教えた通り、それが本来の“魔法”だったじゃないか。」
「は、はい・・・!!」
暗くなって再び森へ出ることも、明日に担った役割も、果てしなく大きかった。
シェブロンはよく分かっていた。
だが、ファラに与えた役割は託すほかない。
師と弟子は、たとえ離れていても、同じ意思に貫かれているものだ。
「フィヲを頼んだよ。」
実状からすれば、フィヲにファラを頼むと言うべきだったかもしれない。
師はそれをあえて、ファラにフィヲを頼むと言ったのである。