第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
ファラはそれを聞いて覚悟を決め、隣のフィヲの方を見ないで「はい」と返事をした。
フィヲが不安になって聞いた。
「先生、わたしも一緒に行きます。」
シェブロンはまだ決めかねた様子で、しばらく考えた。
そして言った。
「長老の森の作戦は全てファラくんに任せる。
慎重に人選しなさい。」
これにもファラは厳かに返事した。
ザンダが立った。
「先生、一生のお願いです。
おれも長老の森へ行かせてください。」
少し間を置いてシェブロンが訊く。
「それではロマアヤ軍の指揮は誰が執るんだ?」
「ムゾール爺に頼みます。」
老ムゾールはザンダの最初の声を聞いた時から覚悟を決めていた。
シェブロンが重ねて問う。
「甘えたことを。
ヱイユくんの言う通り、悪魔たちは次にリザブーグを狙うだろう。
四散する悪魔たちを長老の森だけで防げるのか。」
「おれはロマアヤを守るために戦います。
それに、ファラくんとおねえちゃんが行くなら、おれも、どうしても行きたいんだ・・・!!」
師は、頼もしく育った三人の教え子を見ていて、その間には不思議な絆があることを感じていた。
フィヲはファラが何と言おうとついていくだろう。
ファラとフィヲが行く以上、ザンダは隠れてでも行ってしまうに違いない。
彼らの強い結合を切り離すことは誰にもできないと知ったのである。
「ザンダ。
今のきみは、自分一個の“生命”と“使命”と考えてはいけない。
民を忘れるな。
そして父にかわって、若きゼオヌール公としての振る舞いを頼んだぞ。」
ザンダも力強く返事した。
その瞳には涙が浮かんでいた。
シェブロンのザンダを見る目は、昔、青年王ゼオヌールの目を見ていた時と同じだった。
ザンダもそのことを直感した。
だがザンダは、以前、心配ばかりかけて怒られた頃にも、実は同じ眼差しがあったのを思い出して、師のありがたさに涙が溢れ出すのを止められなかった。
シェブロンは笑みを湛え、自ら立って来て言った。
「まずルビレム君と連絡を取り、ロマアヤの布陣を整えなさい。
そしてミナリィの艦隊、リザブーグまで来てくれた皆の動きを決めた後、自分の行動に出るのがいい。」