第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
タフツァが前に出て会議を始めようというところで、ルアーズが立った。
「サザナイアが・・・、まだ戻らないんです。
こんなこと今までなかったのに。」
対外戦線の一切を引き受けていたファラは、フィヲと二人で真っ先に来てしまったことを悔いた。
全員が帰り着けるまでは、自分が呼びに行くくらいの心積りが必要だった。
「ぼくが探しに行きます。
あれだけの警備体制を敷いても見つからないなんて、敵を深追いしているかもしれない・・・!!」
許しを請うようにタフツァの顔を見た。
首を横に振っている。
ファラは驚いた。
「タフツァさん、行かせてください!」
「代わりに伝令を出そう。
・・・プッゴスの部下を呼んでくれ。」
これを受けて、すぐに兵士が駆けて行った。
タフツァとファラはまだ同じ戦線で戦ったことがない。
ファラはタフツァが、自分のことを信用してくれていないのかと思った。
だがタフツァは、まいったなと言わないばかりに、急に笑顔を作ってファラの近くへ駆け寄り、周囲には聞こえないほどの小声で言った。
「きみ抜きに作戦は成り立たない。
会議の順番を変えて、出やすいようにするから、しばらくここにいてほしい。」
ファラはすぐには声が出なかった。
ただ頷いて、顔を赤らめていた。
横でフィヲがクスっと笑った。
そして囁いた。
「最短で作戦を理解して、すぐに飛び出しましょう。」
タフツァが話し、皆は席に着いたまま聞いた。
シェブロンもタフツァの説明にじっと聞き入っている。
戦場での猛者ばかりが集まっていながら、どの面持ちも強張(こわば)るほど、緊迫した内容だった。
「上陸作戦の最中(さなか)、ザンダの船から小竜リールがいなくなったと報告がありました。
そのリールが、夜になってリザブーグへ来たのです。
今は医務部門で休ませています・・・。」
多くの者がリールに手紙を託し、仲間との連絡を取り合う経験をした。
今ようやく一箇所に集まって共に戦えるようになったのだ。
それも彼(か)の小さな竜がつないでくれたからと言えるだろう。
皆、リールのことを心配して声を出しそうになったが、タフツァの言葉を待った。
「リールは怪我もなく、食欲も旺盛です。
運んできた手紙の主(ぬし)は、・・・ヱイユです。」
ソマが待ちきれずに立ち上がる。
タフツァはなだめるように読み始めた。
「『悪魔どもが長老の森に入った。
俺一人では防ぎきれない。
次に狙われるのはリザブーグだ。
そっちの守備を固めた上で、味方を送ってほしい。』」
「大変!!
私が行きます。
タフツァ君、まさかダメなんて言わないでしょうね!?」
間髪入れず、シェブロンが言った。
「ソマ、心配だろう。
分かっている。
だが、長老の森へはファラ君に行ってもらう。
他に誰も太刀打ちできないんだ。」