第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
急ぎ引き返して仲間に知らせるべきか。
一対一の戦いを挑むべきか。
敵を前にして背中を向けることだけはしたくなかった。
だが、ファラは今回の対外戦について、特にテンギについて厳重に言い含めていた。
『テンギやホッシュタス、フィフノスの一派と出会ったら、絶対に交戦しないこと。』
幾度となく言われたのだ。
そして、もしも相手がテンギならば、必ず自分に知らせて、一任してほしいと。
単独で戦えば仲間との約束を破ることになる。
また、戦ったとして、腕を斬り落とすようなやり方でしか渡り合えまい。
いつか聞いた、「古代魔法グルガの封印」の話を思い出した。
危険勢力を闇へと葬り去ろうとした結果、彼らの怨みと憎しみが積もり積もって現在の“魔族”を生み出したのだ、と。
不思議な縁によって“LIFE”と出会えたからには、過去と同じ轍(てつ)を踏むことは許されない。
彼女はファラの戦い方を思い浮かべた。
攻撃に特化した迷いのない戦闘スタイル。
危険極まりない相手の武器を真っ先に破壊してしまう、戦略としてのウェポンブレイク。
相手の非を激烈に弾呵(だんか)する、雷鳴の如き強い声。
魔法の応酬に長けた力と力のやり取り。
一方のサザナイアは、力に逆らわず、流れるように剣を振るい、一瞬のチャンスをものにして繰り出す一撃に、最大の威力を込める。
その太刀筋に打たれると、どんな武器も防具も弾け飛んでしまう。
ただし、手足が一対(いっつい)ずつの、普通の人間が相手ならばの話である。
五対の手、五対の足を持ったテンギの、どこに隙を見出せるだろうか。
彼女は剣士として戦いを挑めないことを口惜しく思ったが、ここからまっすぐ城へ戻り、逸(いち)早く対テンギ戦の人選を行って対処することが、今の自分にできる最善の方法であり、“LIFE”戦術にも通じるのではないかと心を決めた。