第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 06 節「輪廻の支配者」
「ここにも、動けないだけで、まだ停止していない機体があった・・・。」
国境にかなり近い。
ミルゼオ国の出身であるだけに、サザナイアは突き止められる限り調べて帰りたいと思った。
後方へ回り、相手は機械だが、少し残忍な感を押し殺して、首の所に刺さっているチップを引き抜いた。
ピー、と機械音が鳴って、段差にはまっていた機体が停止する。
チップには前回の定期メンテナンス以来、約1ヶ月分のデータが蓄えられていた。
「これも何かの役に立つでしょう。
それにしても地面がめちゃくちゃ・・・。
なんて大きな穴。」
土が掘り返ってしまっている足元に両手を着き、奥の方まで覗(のぞ)き込む。
「深い・・・。
そ、底で誰か倒れて・・・!?
ひ、いやっ・・・!!」
とっさに口を押さえた。
目が合いそうで、恐ろしくなって飛び退(の)いた。
はっきりとは見えないが、上半身裸の男が倒れているようなのだ。
『助けなければ・・・!!
い、いいえ、もしかしたら・・・!!』
恐る恐る、もう一度覗き込んで見る。
大きな穴の底に横たわっているのは、まぎれもなく、千手の鬼神テンギだった。
『ど、どうしよう・・・。
気を失っているのかしら。
声をかけたり、光を当てでもして、万が一、目を醒ましたら・・・。』
LIFEにとって、最も危険な敵であることは疑いもない。
過去、どんな時でもファラとフィヲが引き受けて、退けてくれた。
サザナイアはまだ多くの魔法を使えない。
アンバスに教わって、長年使い込んできたため、彼女の剣術の中によく組み込まれてはいる。
少しの魔法は剣と剣のやり取りの中でこそ役に立つが、魔法と魔法の応酬になれば全く歯が立たないことは明らかだ。
ファラの8属性魔法がテンギの身に具わっていることも聞いている。
仮に戦闘になれば一歩も退かない自信はある。
しかし、相手の生命を奪うことなく、剣とわずかな魔法だけで、このテンギという怪物を救いきる戦いが自分にできるだろうか。
それに対する今の彼女の答えは、否である。
すっかり涼しくなった秋の夜、額にじわりと汗が滲んで滴った。
剣士として向かうところ敵なしのサザナイアに、“LIFE”戦術における不達という大きな課題が見えた瞬間だった。