The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」

第 59 話
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リザブーグ城を一周して南門に戻ったシェブロンは、入城する前に集まった人々を見渡して再度深く辞儀した。
幾重(いくえ)にも、盛大な拍手が巻き起こる。

「おかえりなさい、シェブロン博士!」
「お待ちしていました!!」

温かい声援が送られた。

「先生!
ずっとここにいてください!!」
「ぼくたちにも“LIFE”のお話をしてください!!」

あちらこちらから起こる声の主(ぬし)を、懸命に探し出しながら、何度も頷いては胸に手を当てる。

何か話そうとした時、皆、拍手を収めて耳を傾けた。

「今日は大変な中、暗くなるまで出迎えてくれてありがとう!
このご恩は一生忘れません。
生命に替えても皆さんを守ります。」

護衛騎士ノイはずっと側にいたが、ザンダもムゾールも、ハムヒルドも、レスタルダも、住民たちには笑顔で接しつつ、敵が近くにいないか常に警戒していた。

気が付くとシェブロンが立っているすぐ後ろには愛弟子タフツァが控えていた。
ここに立つと同時に、人知れず目配せし合う師弟の姿があったのだ。

『厳重な警備体制を敷いてはいたが、敵の多い博士に、4つもの城下町を巡っていただくことになるとは・・・。』

彼は少しでも早く師匠を城へ案内して休んでいただかねばと気を揉んでいるのである。

チラとシェブロンが彼の顔を見た。

『心配するな。
この人たちが最も大事なんだ。
決戦のことは、口にしてはならない。』

師の優しい表情の中にも、タフツァは厳粛な呼吸を感じ取る。
目が合った瞬間、五体に電撃が走ったようだった。

彼が代わりに立って話そうとするのを、シェブロンは手で制した。

「わたしも皆さんと同じ空の下、ルング=ダ=エフサで竜族の移動を見ました。
だが恐がることはない。
竜族もまた“生命”を持っております。
深い一念において必ず“LIFE”の実現を願っている。
ですから心配なことがありましたらわたしの教え子たちに何でも仰ってください。
わたしも城下町へ伺います。」

タフツァはヒヤヒヤした。
しかし師匠が城下へ入ると言われたのだから、それがどんなに困難を極めても、弟子として実現していかねばならない。

そう心に決めた。

住民たちは大いに歓喜して、シェブロンが城に入ってからも、しばらく拍手は鳴り止まなかった。

引き返してもう一度皆にお礼を言いたい。
彼の真情はそこにあったが、今は一切を引き受けてくれた弟子の懇願に従おう。

階段を上りながらザンダたちに言った。

「わたしに代わってもう一度お礼を言って、日没までに皆が無事帰り着けるようにしてほしい。」

疲れていることは百も承知なのだ。

役目を得て、ザンダが喜び勇んで飛び出した。
従者たちも続いた。

内外の一切を掌握しているタフツァをここに残すため、ノイも自ら出向きたいという。
シェブロンは少し彼を気遣ったが、『ご心配には及びません』という視線が返ってきたので頼むことにした。
ザンダに続いて老ムゾールと片腕のハムヒルド、レスタルダが出ようとするのを、シェブロンは、彼らに任せて休んでくださいと言って引き止めた。

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