第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
入城の行列はサウス・ウェストに至った。
ここ数日、シェブロンを迎えるためソマやヤエと変わらぬ尽力を果たしてきたベーミラは、初めて“LIFE”の師と出会える時に来て、遠慮する気持ちが出てきてしまった。
自分は陰の役割に徹しようと思った。
『私は師匠にお目にかかれなくてもいい。
今日まで博士のことを語り伝えてきたリザブーグの人々が、あんなに喜び集っているではないか。』
しかしシェブロンは、この区画にも必ず労を尽くしてくれた人がいると知っていた。
中心となって動いてくれたメンバーだけでも、ソマ、ヤエ、デグラン、更にもう一人いるはずだ。
そして、その人が女性であることにも気付いていた。
サウス・ウェストに入ってから迎えてくれる人々の、シェブロンに対する尊敬の念。
真面目で、理屈のない一本気な人柄が偲(しの)ばれる。
シェブロンはノイに声をかけ、サウス・ウェストに“LIFE”を広めてくれた人を探し出し、最大の感謝の気持ちをお伝えしたいと言った。
リザブーグ城を囲う4つの城下町をぐるりと一周してきた一行の中には、この日初めてシェブロンと会った者も多かった。
彼らは実に、師の偉大さを知るために直接会っても分からず、城下の人々が感激しているのを見てようやく分かってきたと言える。
片腕のハムヒルドは、確かに重要な人物であることは察知していたが、ロマアヤの民が尊敬してやまないのみならず、全く異なる国家を形成したリザブーグの民が、これほどまでに熱烈であることを驚いた。
レスタルダもまた旧ウズダク国の船乗りとして、いずれかの民族における長のような存在ならば見聞きしてきた。
だがシェブロンは過去に見たどんな指導者よりも器が大きい。
決して威張らない。
武力を振るわない。
ではなぜ、これだけの人々が敬愛するに至ったのか。
子供たちの声が響いた。
「おねえちゃん、ほら、お会いしたい、お会いしたい、って言ってただろ!?
早くせんせいのところへ行こうよ!!」
シェブロンは立ち止まった。
その群集の中に入っていく。
街の人々は皆、自分たちの所へ足を運んで今日の出会いを実現させてくれた美しい踊り子の剣士が、まだ師のお目にかからないのをずっと気にかけていたのだ。
ノイに見つかってしまった。
この期に及んで逃げ出すのでは恥ずかしい。
ついにベーミラは心を決めた。
歩いて来るシェブロンと対面した。
「おお、あなたがこの街を“LIFE”に導いてくださったのですね。
本当に素晴らしい力をお持ちです。
隅々にまであなたのお心が行き渡っているようです。」
ここへ漕ぎ着けるまで、住民の中には反対する者もいたのだ。
何を言われても誠意を伝え伝えて師の元へ連れて来たのである。
街中(まちじゅう)の歓声がこだまして聞こえる。
彼女の心の反響ともいえるそれら幾多の声に背中を押されて師の前へ進み出ると、西へと沈みゆく夕陽と重なって眩(まばゆ)いシェブロンの顔(かんばせ)を見、手を握るにつけ、あまりの温かさ柔らかさに包まれて、ついに感涙の出会いを刻むことができた。