第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
4つの城下町では、家の門という門、窓という窓が皆開け放たれ、「ゲート」へ連なる大通りに沿って人々が立ち並んでいた。
タフツァは当初、南のゲートでシェブロン一行を迎えて、そのまま入城してもらうよう、準備していた。
しかし意向を伝えるとシェブロンは、全ての住民に挨拶をしてから入りたい、という。
これを聞いたソマとヤエ、ベーミラ、デグランら、これから迎える“LIFE”の師について、城下の人々に語り歩いたメンバーは喜び舞い上がるようだった。
家を訪れればシェブロン博士の施策のおかげで亭主が仕事に就けたとか、“LIFE”騎士団の誕生でリザブーグに大きな希望が生まれたなど、聞き出そうとするまでもなく、住民たちが話してくれた。
街路に遊ぶ子供に語りかけると、大勢集まってきて、口々に味方の騎士の名前が出る。
少年にも少女にも“優しいナズテインさん”が人気のようだ。
彼は騎士団全体の動きを掌握しつつ、皆が力を出しやすいように手を尽くしていた。
そうした陰の役割をこなす旁々(かたがた)、出会った子供にはにこやかに声をかけてくれるという。
また、元気のいい少年たちにはアタッカーのウタックやハッボスが人気らしい。
少女たちからは“バグティムトおじさん”、“レンガーさん”、“大きな盾のヌザルムさん”といった名が挙げられる。
もう少し年齢が上になると評価の仕方が変わってくる。
「オルグスのおやじは怒りっぽくて恐かったのに、“LIFE”騎士団に入ったら頼もしくなった。」
「マシンク兄ちゃんはかなり腕を上げた。」
「ラッツピンさんの双剣戦法を教わってみたい。」
「みんな目立たないと思っているかもしれないけど、レヂョウさんの活躍はすごいんだぜ。」
ソマもヤエもレボーヌ=ソォラでの彼らの活躍を見聞きして知っている。
「騎士になりたい子は訓練の様子を見に行っていいのよ。
剣でなくても、学師様が才能を引き出してくださるわ。
魔法に興味があるならお城へいらっしゃい。」
王国には伝統ある騎士の道を志す子が多い。
若くて純粋な求道心であるからこそ、正しい方向へ向けてやらなければかわいそうだ。
騎士道を誤った幾多の者たちも、元は純粋な少年であったことは疑いない。
女の子の中には、ヤエに憧れて剣を握る子もいる。
ソマと話がしたい内気な子もいる。
リザブーグの未来を作りゆこうとするこの時に、街路で出会った一人一人の輝く顔(かんばせ)が宝物に思えた。
「街灯に明かりがつく前に、おともだちやおうちの人と一緒に、大通りで待っていてね。」
「わたしもシェブロンせんせいに会える?」
「ええ。
先生はみんなに会いたくて、お城をぐるっと一周されることになったの。」
ゲート前に集まれる人数は限りがあるから押し寄せないようにと言われていた少年たち、少女たち、町の大人たちも歓声を上げた。
「もうすぐよ。
シェブロン先生は、全ての人が内なる“LIFE”を開花できるよう、生涯をかけて教えてくださった、得がたい人生の師匠です。
心からの拍手でお迎えしましょう。」