第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
執拗なほどに待った。
急(せ)かしても戦えないだろう。
ファラはドリュフォスに隙を与えぬよう、怒気で圧倒し続けた。
ドリュフォスにしてみれば、戦っても勝てないことは分かりきっている。
少年は自分を痛めつけようとしているのだろうか。
時々フィヲと話しながら、馬にも何やら声をかけている。
鬼気迫るほどに圧迫を加えておきながら、全く自分の方を見ている風(ふう)はない。
今度こそ殺されるのではないか。
実は、ファラの狙いはそこにあった。
“LIFE”の戦い方とはどんなものか。
それを身をもって打ち込んでやらなければならない。
ドリュフォスは金縛りに遭ったように身動きできないまま、心臓の鼓動だけが高まっていた。
自然と呼吸も乱れてくる。
「おさまったようだな。」
今まで周辺の森を見渡して警戒していたファラが、つかつかと歩み寄ってきた。
凍てつくような冷たい表情だった。
「さあ、剣を取れ。」
促されても心の準備が整わない。
無意識に首を振っていた。
「『敵に情けをかけるなど、騎士ではない』、と言ったな。
その態勢のまま、我が剣を受けたいか。」
ドリュフォスが後方へ飛び退(すさ)る。
しかしこれだけ醜態を曝して、王国騎士のプライドが傷つかないはずはなかった。
腰に忍ばせた短剣に手をかける。
ファラはまだ武器屋に発注を済ませた段階であり、仮の装備なのだ。
刃を返した剣と分かったからには、次は避けられよう。
冷や汗を垂らしながらドリュフォスが立ち上がった。
素早く剣を拾う。
ファラはわざと気をそらしたふりをしていた。
そこへドリュフォスの鋭い剣先が襲い掛かった。