第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
フィヲは一瞬ひやっとしたが、ファラが馬を追いかけてなだめ始めたので、自分はドリュフォスを助けに行こうとした。
そして立ち止まった。
ファラの敵を自分が助けてはいけない。
どんな時でも味方だと言ったからだ。
「フィヲ、この馬を頼む。」
心優しい少年も、内なる闘神が目覚めれば恐ろしい。
行き過ぎて相手の生命を奪いでもしたら大変である。
「どうした、もう終わりか?」
ドリュフォスは目をあけたまま、苦しそうに咳(せき)をした。
「呼吸ができないのか。」
とても起き上がる気力はないらしい。
「ぼくが斬ったのはお前の慢心だ。
侮ってかかるから痛い目に遭うんだ。」
ゴホゴホと咳が続く。
「こんな鋭利な刃物で人を斬ってきたのか?」
ドリュフォスはようやく横向きに手を着いて上体を起こすことができた。
「・・・当たり前だ。
敵に情けをかけるなど、騎士ではない。」
「呼吸が整ったら剣を取れ。」
座ってゼエゼエと息を衝きながら、ドリュフォスは一瞬、心臓が止った心地がした。
ファラの視線にぶつかったのである。
ドリュフォスはLIFE騎士団やルアーズたちがそうしたように、自分もこれで許されて、リザブーグへ送られると思っていた。
それが、もう一度打ち合いをしなければならないとは。
馬はフィヲに撫でられて落ち着きを取り戻していた。
しかし彼女は気が気でない。
せっかく助かった相手と、まだ戦うつもりなのか。
「生命は取らない。
まだ折れていないんだろう、お前の慢心は。」
最後の最後まで刃向かってきた男だ。
確かに芯は強い。
それだけに、このままリザブーグへ送っても、ドリュフォスは仲間を集め、反旗を翻すに違いない。
ファラはそう考えていた。