第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
「誰かに聞いてみたい。
過去にどんな災いが起きたのか。
魔法が移ってしまうのも、ぼくとテンギに同じ血が流れているからなのか・・・。」
「大丈夫よ、どんな時でもわたしが側にいます。
今夜シェブロン先生にお聞きしましょう。
それまでは考えないで。
どんな答えが待っていても、あなたはあなたの決めた道を、迷うことなく歩み通せばいいんだから。」
少年は絶望という闇と戦い続けていた。
そこに再び希望の光が差してきた。
またフィヲの笑顔に、心の温もりに救われたのだ。
タフツァは昼間のうちに博士をお迎えすると言っていた。
ファラが引き受けた対外戦は暗くなるまでが勝負である。
「もし機械兵が全滅していても、絶対に油断はしない。
みんなと合流して、もう一度森中をくまなく探していこう。」
フィヲは笑みを湛えた変わらぬ表情で、決然として頷いた。
そんな折、近くで馬の嘶(いなな)く声が聞こえた。
「フフッ、見つかってしまったか・・・。
子供が二人、こんなところで何をしている?」
この騎士がドリュフォスだ。
「見回り中でね。
あんたみたいなのを捕まえるのが役目なんだ。
・・・フィヲ、周りを見張っててほしい。」
少女が頷いて離れた。
本心では一緒に戦いたいのだが、今はファラの言う通りにしようと思っている。
全ての魔法を修得して、その半分を失った彼に、少しでも多く自信を取り戻してもらいたかった。
「馬術もお前の戦法のうちだろう。
そのままで来い!!」
前肢を上げて声を上げた馬が、主の命(めい)を受けて突っ込んできた。
ファラは馬に攻撃するつもりはなかった。
また、ドリュフォスを引き摺り下ろして戦うつもりもなかった。
騎兵ごと撃つ。
ドリュフォスの剣も大型で長く、左右に広がる刃がついていた。
ファラはそうしたものを見ると激しく憤った。
振り下ろされる剣に、今武器屋から借りている大剣の先を向ける。
挑発である。
ガツンと当たったのは、上半身をすっぽり守るカイトシールド。
斬撃を外へ逸らし、相手の胸元へ飛び込んで、力任せに突き破った。
悪道に迷う騎士に対しては、手加減などしないほうがいい。
頑丈な胸部の鎧が割れて、無刃刀とは異なる、刃を付けていないだけの剣先がドリュフォスの体を突き飛ばしていた。