第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
遠隔武器を手に身を屈め、旧セト将ジシューの部隊を狙っている者がいた。
王国のゼネラル、ジダッツと部下たちである。
彼らはボウガンを巧みに操り、近くを射抜いて威嚇したり、鎧に傷をつけたりしてきた。
ジシューはファラと二度に渡って会戦し、完膚なきまでに破れた男だ。
当時長い髭(ひげ)を生やしていたが、今は顎鬚(あごひげ)はなく、口の上にだけ整った髭がある。
清潔感のある髪型にしたことも改心の表れであろう。
彼は10歳も若返ったように見えた。
それでも名の聞こえた猛将であった頃の、天を衝くような覇気が、武門に生きる者の挑戦を誘ってしまう。
横目でギロリと睨んだ森の木陰、一箭(いっせん)の矢が放たれてジシューの頭部へ飛んできた。
それを手甲(てっこう)のついた厳(いか)つい腕で掴み取る。
「臆病者め!
こそこそしておらんで姿を見せろ!!」
ガツン、と、刃を矯めた扇形の大剣で樹木を打ち鳴らす。
一瞬ファラの顔が思い浮かんで汗が滲んだ。
『生き物も木々も殺傷してはならぬと言われておったのだ。』
ジダッツと部下たちは密集して集中射撃を行った。
カン、カン、・・・。
ジシューは今、自分で抑え込んだ激しい気性を、戦いのために解放してしまった。
「そんなものが何の役に立つ!!
この俺を馬鹿にしておるのか!?」
風を巻き起こしながら猛追したジシューの姿に、敵は慄(おのの)き、味方は力を得た。
近くにいた女剣士のリルーが横殴りに敵の部隊を突き破った。
分断されたジダッツの部下たちは、10人ほどの二つの塊となって森へ逃げ散ってしまう。
「追え!
一人余すな!!」
「貴様、誰に命令している!?」
リダルオ南征衝の大将だったズンナークの右将リルーは、まだプライドを捨ててはいない。
だが本気で怒ってもいなかった。
「ワシも行く。
おぬしも、他方を頼む・・・!!」