第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
実際には花火を見てすぐ攻撃するのは早すぎる。
住民もミナリィ兵も逃げる時間がないからだ。
そこはシェブロンの指示で、先に小舟を上陸させる作戦になっていた。
上陸と誘導には、ルビレム配下のバミーナ、ナーズンという二人の女性戦士があたる。
すると、一人の老婆が架橋を渡って主艦に乗り移り、大声を張り上げた。
「ザンダ、バリアはどうする!
二人を捨て石にする気か!!」
振り返ったザンダはあまりの勢いに飛び上がった。
両肩を掴まれて、あやうく後ろに倒れそうになる。
老婆ヴェサだ。
「二人への攻撃はあたしが防ぐ。
援護もしようじゃないか。」
「ばあちゃん、無茶しちゃだめだよ。」
「何が無茶なものか!
槍でも鉄砲でも持ってくるがいい・・・!!」
シェブロンが仲介に立った。
「ヴェサさん、心強い限りです。
彼女たちの援護をお願いしますが、フィヲに会うまで、どうかお体だけはご自愛ください。
万一、接近戦になった場合、“LIFE”の魔法陣が有効です。
魔力の消耗がありません。」
出陣を許されると、急に涙もろい近頃のヴェサに戻った。
バミーナとナーズンが声を励まして誓う。
「上陸後はわたしたちがヴェサさんを必ずお守りします。」
それぞれが船に乗り込むと、ザンダは主艦の脇に降ろされた小舟の所へ行った。
動力は積んでいるものの、奇襲するには速度が足りない。
ザンダが魔法で飛ばすのである。
「右翼の艦隊がすぐに上陸する。
それまで住民を避難させながら東の森へ抜けてくれ。
そこにLIFE騎士団のみんながいる。」
女性兵士二人が頷き合った。
「ザンダ、油断するんじゃないよ。
くれぐれも先生にお怪我のないように。
・・・あとのことは任せたからね。」
勢いよくボートが水上を滑走していった。
早くも港から銃撃が起こる。
ヴェサのバリアで守られ、一気に陸まで飛び移ったナーズンは敵地へ駆け込む。
バミーナがヴェサを抱き上げて上陸した。
彼女たちの戦いをよく知るムゾール=ディフが双眼鏡を見ながら合図した。
開戦を知らせる花火が3発打ち上がる。
ズドーン。
ハムヒルドの艦から強力な砲弾が港へ打ち込まれると、陸地の一部が崩れ落ちて海に流れた。
港は混乱状態となり、ナーズンとバミーナの声に、人々は北を指して走り、王国兵らが立ち塞がってきた。