The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」

第 25 話
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とっさにニサーヤの力を解放してヱイユの前に出た。
敵の顔などどうでもよい。
見たくもない。

彼女はヱイユの側(そば)へ行きたくて飛び出したのである。

背中から貫かれてしまった。
その槍の先がヱイユの胸にも傷つけたことを、彼女は悲しんだ。

死は自分にやってきた。
彼の胸に抱かれて・・・。

ファラが飛び上がってクザロを討ってくれた。

この時、ヱイユの戦いは終わったのである。

親のない彼に、母の愛情を与えてくれた、最愛の女性ムヴィア(ファラの母)が、生命を落とした時でさえ涙は流れなかった。

ただ自らの非力を悔やみ、敵を憎んだのである。

それが、目の前でヒユルに死なれた後、彼は雨にうたれて慟哭した。
戦線を退いて、いつまでも彼女から離れなかった。

王宮が音を立てて崩れる中、彼は呆然と立ち上がり、ヒユルを抱いて更に遠ざかった。

そこには川が流れていた。

ヒユルに頬寄せて抱きしめ、川の水をかけてやり、また哭(な)いた。

悪魔の群が北へ飛び去っていく。
彼を狙う者はなかった。

実に、何時間もそうしていたのである。

目が覚めると、彼は生き物の温もりを感じた。
ヒユルの体を抱く彼を、灰竜アーダが守るように支えてくれていた。

「アーダ、こいつを長老の木へ連れて行ってやりたい。」

悲しみを励ますように強く鳴いたアーダは、二人を背に乗せると、悪魔の大群が向かった北の大地へ飛び立った。

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