第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
ヱイユはどこへ行ってしまったのか。
メレナティレ王宮が崩壊したあの日あの時、フィヲはファラを助けるために最上階へ急ぎ、トーハは技師仲間とともに機械兵を操って空を覆った魔獣たちと戦い、住民を避難させていた。
テンギとの二度に渡る対決。
フィフノスとの応酬。
森を埋め尽くした翼人たちに追われ、フィフノスに追い回され、ヱイユは疲れ果てた体でメレナティレへ入った。
そこで見たものは魔獣ばかりではなかった。
精神体の悪魔、その棟梁たち。
今もはっきり覚えている、幼少時の悪夢そのものだ。
フィヲが必死になって張っている城のバリアを悪魔たちに破らせないため、空中戦となった。
どんなに倒してもきりがない。
悪魔クザロ=ケケとの因縁の対決・・・。
数秒後に宣告された、自らの死・・・。
その瞬間、彼の胸元にヒユルが飛び込んできたのだ。
テンギに暴行を受けて絶望の淵にあった彼女は、恋敵(こいがたき)のソマを追ってリザブーグへ行くことも考えたが、森にヱイユの敵が溢れていたため、引き返して一度は彼の危機を助け、メレナティレへ先回りした。
悪魔カコラシューユ=ニサーヤの本能からすると、ヱイユは我が身を滅ぼした仇(かたき)であり、どのような手を使ってでも報復しようとしていた。
一方、ニサーヤの力は得たが、意思まで奪われていないヒユルは、ここでヱイユと別れればもう二度と会うことが叶わなくなると思った。
憎い女に取られるくらいなら、ヱイユを殺して自分のものにしてしまいたい。
しかし、生涯で初めて一人の生命を救ってから、彼女の中に変化が起きていた。
貞操を失った姿を、本当は見られたくないのである。
その恥を忍んでまで助けた男を、本当に殺せるだろうか?
ヒユルはヱイユに愛されるという望みを捨てきれなかった。
あるいは彼に力を与えることで手を取ってもらえるかもしれない。
そして願いが叶った。
もう一度ヱイユを見ることができたのだ。
しばらく彼が戦う姿を地上から見上げていた。
一つ一つの動きが美しい。
彼の強い意思に触れて心を打たれる。
だが、その時間は長く続かなかった。
ふと気が付くと、電光に映し出された光景は、まさに愛する男が死ぬ場面だったからだ。