第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
ファラに直接的な私怨を持っていたボルフマンは戦闘不能となった。
おそらくは魔剣士としても再起不能であろう。
少年は、彼らしくもない荒々しい声で叫んだ。
「いい加減に心を改めて、“LIFE”に生きろ!
ただそれだけだ!!」
二重、三重に取り巻かれて、ファラは軽い目眩(めまい)を覚えた。
頭を振って払いのける。
術士たちは、どんな魔法も、・・・グルガさえもまるで効かないので、杖や棍棒、短剣などを持って一斉に襲いかかった。
ファラは魔獣の力を借りた。
地面を破るように、大蛇シラルルが上空指して伸び上がり、ファラはその頭に乗って持ち上げられた形だ。
少年を取り囲んでいた敵群の勢いが弱まる。
前列は腰を抜かし、後続はぶつかったり躓(つまづ)いたりして転倒している。
ファラは包囲の薄い、突破できそうな所へ飛び降りた。
集団だからこそ彼に戦いを挑めるのだ。
それが、空から自分を目掛けて剣を振り下ろしてきたら。
戦意を示す者は皆無だった。
追われて逃走し、転倒して、ファラに“LIFE”の魔法陣を込めた一撃をくらう。
彼らも“LIFE”の責め苦に打ち震え、全身の力が麻痺した。
追ってこないなら、また逃がすくらいなら、ファラはケリをつけたかった。
一網打尽を狙っていく。
「うわああああああ!
殺される!!」
「そこ邪魔だ、どけっ!!」
「押すんじゃねえ!」
黒いローブの一団は、恐怖のあまり、互いに酷(ひど)く罵り合って我先に逃げようとした。
それがかえってファラに好都合だった。
まだトゥウィフが残っている。
ファラは水平に、広がる円状に、衝撃波を飛ばした。
“LIFE”の魔法陣が込められたトゥウィフだ。
触れた者は絶叫し、逃げる足は縺(もつ)れ、あるいは衝撃で突き飛ばされた。
人と人、術士と術士がぶつかり合って折り重なる。
彼はこの瞬間、倍する数の敵を見た。
息が切れてしまっていた。
『もう魔法は撃てない・・・。
そうだ、フィヲは・・・!?』
少年が離れたところで戦うのを、恐る恐る見交わしながら、洋裁店を襲撃するか迷っている者たちがいた。
「このおおおおお・・・!!」
猛然と駆け戻ろうとするファラに気付いて、術士の一人がついに火を放とうとした。
他の術士たちも家屋を攻撃し出した。
ファラは怒りに我を忘れて目の前の敵を打ちまくったが、行く手を遮る術士、敵の剣士の、なんと多いことか。
その時である。
いつか見た、地を走る光の筒(つつ)が抜けていったのだ。
「ファラ君!!」
「アンバスさんー!」
更に洋裁店の前に群がった敵を一掃する、華麗な剣の舞いが目に映った。
サザナイアもいるではないか。
「情けないわね、さっさと片付けましょう!」
その声は、彼の後ろから加勢してくれたルアーズだった。
邪魔する敵群のど真ん中へ、痛快なまでの蹴撃が炸裂する。