第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
「あなた、お名前は?」
「ロワムよ。」
「学校に行ってるの?」
「うん!」
「最近は、授業ある?」
「今はできないの。」
「そうね・・・。
学校がない時はお店番なの?」
「わたし、お店は好きよ。」
「普段、どんな人が買いにくるのかしら。」
「おねえちゃんは魔法使いでしょ?」
「そう。
魔法使いの服がほしくて。」
「お裁縫の好きなおばあちゃんとか、子供の服を作る人もいるけれど、ほとんどお店から注文を受けるの。」
「洋服屋さん?」
「うん。
お母さんが洋服を作るの。
お客さんは布を選んで注文していくわ。」
フィヲは布に魔法を込めた後、ここで注文して魔導着に仕上げてもらうことを考えた。
「ねえ、兵隊さんの着る服とかは?」
「作る。
騎士団のマントも、鎧の下に着る防護服も。」
「じゃあ、わたしが魔法使いとして戦場に立って戦うなら、どんな素材がいいかしら?」
ロワムはしばらく布を見回していた。
「剣で斬られるの!?」
「そういうことも、あるかもしれないわね。」
「大変!!
それなら、金属繊維を織り込まなくちゃ!」
「軽くて、ある程度は強度もほしい・・・。」
「大丈夫よ、注文を書いてあげる。」
それからフィヲは魔法の威力を上げるため、手足の袖口と襟(えり)の周り、裾(すそ)の所に「伸びゆく雑草」の紋様を刺繍してほしいと願った。
ロワムは書き取りながら、フィヲに好みの布と糸を選ぶように言った。
その間、ファラは外の様子を窺(うかが)い続けていた。
少女の母親が帰って来るタイミングを狙われるとまずい。
『ぼくが出て敵を引きつけても、店を襲われたら危険だ。
フィヲに頼んでおくか・・・。』
ボルフマン程度の敵に、あまり動揺したところを見せるのはマイナスである。
飽くまで堂々とこちらの用件を済ませていくべきだ。
「ロワムちゃん、きみのお母さん、どっちの方から来るかな?」
少女は扉の方へ走って行こうとした。
ファラは肩をつかまえて、少女の耳元で言った。
「ごめん、今、外には危険な奴らがたくさんいる。
お母さんは必ずぼくが守るから、扉を開けないで。」
少女はまた泣きそうになって頷いた。