第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
細い街路を抜けて、二人は洋裁屋に至った。
中では10歳くらいの女の子が一人で店番をしており、棚に並べられた多彩な生地はフィヲの目を引いた。
ファラは彼女が夢中になっている間に、出入口寄りに立った。
扉の隙間から外の様子を伺う。
「お客さん、何してるんですか?」
少女が問いかける。
「ああっ、心配しないで。
悪い奴が来たらやっつけてあげるからね。」
そう言われると急にこわくなったようで、少女は泣きそうな顔をした。
「ねえ、ファラくん、これどう?」
ファラは少女が泣いて大声を出すとまずいので、近くに行って懸命になだめた。
「ねえってば!」
まさかこの場面でフィヲまで感情を出してくるとは。
「あ、ごめんごめん!」
「もう!」
「その色、きれいだね。」
しばらくフィヲは顔をそむけて黙ってしまった。
「お嬢ちゃん、おうちの人は?」
「仕入れに行ったの。」
「そっか・・・。」
窓ガラス越しに黒いローブの男が見えた。
すでにこちらに気付いているらしい。
単独で出れば戦闘は避けられないだろう。
といって、少女を盾に取られるわけにはいかない。
ファラは多少焦りを感じたが、落ち着いてフィヲの側に寄っていった。
本当は急いで品物を選びたい。
しかし、決戦のための装備を作るのである。
時間がないからこそじっくり選ばなければならない。
「フィヲ、さっき、きみも見ただろう?
ほら、窓の外に黒ローブが。」
彼は少女をこわがらせないよう、フィヲにだけ聞こえるように言った。
「わかってるもの。」
ファラはフィヲの肩に触れた。
本当はいとおしくて、いつまでも触れ合っていたい。
「ねえ、二人は、こいびとどうしなの!?」
ファラはドキッとした。
が、フィヲは機嫌を取り戻した。
「・・・そう、見えるかしら?」
「うん。」
この時からフィヲが少女の相手をするようになった。
黒ローブたちは何をしてくるか分からない。
どうにか敵を一手に引き受けて、二人を脱出させられないだろうか。