第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
「物騒な世の中だ。
新しい装備を渡せるまで、代わりの剣と盾を持っていってくれ。
丸腰ではいられないだろうからな。」
ファラは得意げに父ツィクターの剣を出してみた。
抜剣するのは初めてだった。
「こりゃあ、名刀には違いないが、このままではすぐにこぼれちまう。
打ち直してやろう。
無刃刀にするか?」
「いいえ、これは、そのままの性能にしておいていただけませんか。
父の形見なんです。」
「そうだったか・・・。
元々、切断するような刃ではない。
つまり、人を斬るようにはできていない剣だ。
相手の防具を破壊することに主眼を置いていたんだろう。」
「ディフェンダー」という名前のついた、この短い形見の剣もすぐには使えないと知って、ファラは店内を見回した。
「大無刃刀とできるだけ使い勝手が同じような剣にしよう。
・・・片刃だが、この大剣でどうだい。」
手に取ってみる。
やはり振った感じが新しい剣と似ていた。
ファラはこれを借りることにした。
代替の盾はやや大きめの「カイトシールド」になった。
また、フィヲもロッドに魔鉱石を組み込んで鍛え直すため、別の宝玉のついたロッドを借りる。
「それは球状にした水晶だ。
どんな魔法とも相性がいい。
近頃は人工的にも作られていて、決して高価なものじゃない。
安心して使ってくれ。
ここでは魔具が売れないから、そのまま持っていってくれても構わない。」
ひとまず注文の用事が済んだので二人は店を出た。
東のゲート近くに洋裁屋があるらしい。
「フィヲのおかげですごい剣ができそうだ。
今度は魔導着を作ろうね。」
ファラがこんなに親しく話しかけてくれたのは初めてだった。
今まで、敵との戦いのこと、次の作戦のことなど、いつも真面目な顔で話してばかりで、感情を見せることがほとんどない。
フィヲは近付き過ぎることを恐れず、同じ調子で返した。
「ええ。
色や形はあなたに選んでほしいの。」
少年はドキッとした。
彼女の身に着けるものを自分が選べるだろうか。
「魔法を受け付けないものもいいけど、属性魔法ならエネルギーとして吸収できる方がいい。」
「うん、それがいいわ・・・!!」
「あとはきみが動きやすいように。
滑走したり、飛翔したりするよね。」
フィヲと目が合った。
頬を紅潮させ、笑った。
「ねえ、フィヲ。
攻撃面の性能は・・・?」
ファラは少し油断したと思った。
フィヲと向き合うのはまだ少し早い。
いつ、どこから敵が襲ってくるか分からないからだ。