第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
それからフィヲと3人で、しばらく剣の形状や重心、ファラの戦法、剣の扱い方など話し合った。
「名前は『ゼエウの剣』にしてください。」
フィヲがそう言うのである。
「はっはっは、しっかりしてるな。
どうだ少年、それでいいのか?」
「はい。
『ゼエウ(空)』の文字の形を刀身に、『ファイエ(増幅)』の文字の形を柄に。
そして宝玉には『フィヲ(結合)』の文字を刻んでほしいんです。」
そう言って紙に文字を描いてみると、彼が求める剣の全貌が浮かんできた。
鍛冶屋もイメージできたようだ。
「きっと仕上げるよ。
宝玉は何にする?」
「これを・・・。
封印の地ディスマでできた鉱石だそうです。」
「おおっ・・・。
そうか、彫金屋にはおれから頼んでおく。
石に文字は刻まない方がいいだろう。
自(おの)ずと使い手の一念がそこに入ってくるからな。」
“一念”という言葉を聞いて、ファラもフィヲも驚いた。
やはり“LIFE”に通じるものをもった一流の鍛冶職人であることは疑いない。
「代金は前に言ったとおり、5000チエルでいい。」
「ええっ!?
そんな、いけません、もっとかかっていますから、取ってください。」
「いいのさ、お前さんの戦いの中で、おれの理想が生かされるんだ。
おれは戦闘に立てないが、代わりに連れて行ってほしい。」
こう言って鍛冶屋が頭を下げるので、二人は慌ててお礼を言い、同じように頭を下げた。
続いて防具の希望を話した。
「ぼくの戦法は主に『ウェポンブレイク』で、剛剣術に近いです。
標準的な鋼の鎧に、強度のある肩アーマー、そして剣を両手で扱うため、盾と鎧は一体である方がいいです。」
「よし、その話を聞いていて思い浮かんだものがある。
その昔、王家の娘に竜王が宿したと伝えられる伝説の王がいた。
剣と魔法に長けたその王は、竜神の魔力を秘めたサークレットと、飛翔の力を持つアーマーを着て戦場を駆け巡ったという。
『竜騎王』の名で呼ばれ、生涯をかけて最強の王国を作った王の肖像画が今も残されている。
おれはいつかそんな防具を作ってみたいと思っていたのさ。」
少年の瞳が輝いた。
その様子を見てフィヲは心を打たれ、温かい気持ちになった。
「じゃあ、魔法はわたしが込めてあげる。
・・・でも『竜神の魔力』って何かしら?
『飛翔の力』なら分かるけど・・・。」
「竜王は海底に棲む者と大空に棲む者がある。
そして火・風・水、冷・熱・電の力を自在に操るという。」
「正と亜の四属性のうち、土に関係する二つだけがないのね。」
しばらくフィヲは黙り込んだ。
さっそく材料を集め始める主人と、どんなものができるかわくわくしているファラの近くで、フィヲは真剣に考えているのだ。
「あーっ!」
驚いて振り返る二人に、フィヲは言った。
「鋼の鎧に、大地からのヒーリングを込めてあげるわ。
そして無限の光源を、“光”を、剣の鉱石に宿してあげる。」
彼女はファラが失っている正亜四属性の全てを、自分の手で装備品に具わらせたいという強い意思を示していた。
竜神が持たない土と磁の属性は、回復と電磁波(光)を込めることで補われたのだ。