The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」

第 12 話
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ファラが魔法陣をはさんでフィヲの向かいに立つ。

彼女は懇願するような目でじっと見て、少し笑った。
ファラは頷きながら話し始めた。

「先生が全ての魔法を身につけるようにと課題をくださいました。
それで、本を読んだり、演習で使ったり、実戦で撃ったりしました。
どの瞬間の発動も、戯(たわむ)れに撃ったりはしませんでした。
生きるため、生かすため、必要に迫られての発動でした。
そしてついに、イデーリアでの激しい戦闘の中、16の魔法を使えるようになったのです。」

フィヲの瞳が輝いている。
じっと見つめられて照れくさかったが、言葉を続けた。

「ロマアヤの戦いの終わり、対峙したホッシュタスに“フィナモ”を奪われました。
ダメージからの苦しみだけでなく、ぼくはもう“LIFE”を実現できないんじゃないか、一体何のために生まれてきたんだろうって、本気で苦しみました。
それからメレナティレに入って、彼女に打ち明けたんです。
その時、描いて見せたのがこの魔法陣です。
真ん中の空白に置くべき文字は、合体魔法の“フィヲ”か、増幅を表す“ファイエ”か、同時発動を表す“アズィム”か、迷っていると言いました。
すると、彼女は、そう、ちょうど今見せているような、嬉しそうな顔でぼくのペンを取りました。」

今度はフィヲが恥ずかしそうにした。

二人は手を取り合って人差し指を重ね、中央の文字を描き始めた。

左右対称形の美しい文字。
“空(くう)”を表す“ゼエウ”の文字が中央に入ると、青空に2本の虹がかかったように、壁がパッと明るくなった。

単に文字の配置だけを教えてもなかなか覚えられるものではない。
フィヲは、皆の心に焼きついて離れない何らかの感動を映じることで、一人でも多くの人に直感的な“LIFE”を伝えようとしたのである。

ソマもヤエも、タフツァも放心状態で見入った。
スヰフォスはシェブロン博士に会った時のように敬恭(けいぎょう)した。

ナズテインは胸の鼓動が速まるのを感じた。

ファラとフィヲは同じことを考えていたが、ファラが先に声を発した。

「これからどんな戦いになっても、剣の一振りにも他の発動の場合にも、この“LIFE”の魔法陣の願いを込めていただきたいんです。
そうすれば必ず勝てます。
魔法文字は描き慣れないかもしれませんが、世界を構成するものが魔法なんです。」

真剣な訴えだった。
フィヲが重ねて念願する。

「世界中、“LIFE”の敵でいっぱいになってしまいました。
各地でたくさんの、本当にたくさんの人が“LIFE”に目覚めたのに、その何倍もの敵が大空を埋め尽くしています。
こういう時は、他のどんな方法でもダメ。
ただ“LIFE”を、わたしたちの願いである“LIFE”を、生きとし生きる全ての“生命”の願いを、真正面からぶつけていかなければ。」

ウタックが問うた。

「御曹司よう、おれも心から感動したぜ。
だがどうすればこれほどの魔法陣を、一閃一閃に込められるんだ。
それこそ後手を踏んじまうぜ。」

非魔法使いの騎士たちの多くはそこを心配していた。

ファラが答えようとする前にフィヲが答えた。

「文字を覚える必要はないわ。
美しく澄んだ青い空に、二重の虹がかかっている。
万物を慈しみ育む、恵みの雨の後の世界。
アーチの虹ではないけれど、このイメージだけ、いつも心に忘れないで戦ってくれるなら。」

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