第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
有翼爬虫(はちゅう)類型の魔獣ニムオーの記憶はまだ続く。
「コウモリの翼を持った人間・・・!!
あいつら、メレナティレでもリザブーグでもなく、一体どこへ行こうとしているんだ。」
「世界には古来、闇に生きる者たちがいる。
ちょうどファラくんと最初に出会った夜、僕たちは方陣を作って戦おうとしたが、より大きな半径を持つ逆方向魔法陣に抑え込まれてしまっただろう?
あの巨大方陣を形成していたのも闇の者たちだ。
今こうして王国に反“LIFE”の輩が集結している時に呼応して、世界中から集まってきたんだ。」
ニムオーの目が真っ赤に光ったので、敵意を感じた魔人たちが逃げ去っていくのが映っていた。
「あ、あれは、テンギ・・・!!」
よろよろと力なく歩いていたテンギが、突然、倒れ込んだかと思うと、ザブンと川に落ちてしまった。
ニムオーは更に追跡した。
テンギは水を欲していたのだ。
川底に俯伏(うつぶ)せで倒れたまま、巨体は水に打たれた。
水を飲みたいらしかったが、向き直る力もない様子で、ただ全身の熱を冷まし続けた。
「おおいっ、ニムオー、わっ、ここまでか・・・。」
メレナティレ城でファラが悪魔イン=ペリージラムによって魔法を奪われた瞬間、召喚中の3体の魔獣は彼の魔法陣の中に呼び戻されたのだ。
「これで、・・・四属性と亜流四属性の8つを失ったことになる。」
フィヲは急に悲しくなった。
これを聞いたヤエも動揺したが、ファラと会ったのが今日初めてのことでもあり、フィヲの肩を抱いて落ち着かせる。
「くそっ、なぜファラくんの魔法ばかり狙うんだ・・・!!」
「全部の魔法を修得できる人はごくわずかなのに・・・。」
レボーヌ=ソォラへの出陣前、このリザブーグ城下でファラと特訓に励んだ騎士たちも深い悲しみを覚えた。
そして悔しがり、憤っていた。
ファラが発動するフィナモ、パティモヌ、クネネフ、ドゥレタ、更にはズーダ、ザイア、テダン、ググ、どれも目に焼きついていたし、心に残っていたからだ。
だが最も多くの場面で戦闘を共にし、彼の魔法によって困難が打開されていくのを目にしたのはフィヲだ。
彼女はファラの剣で、魔法で、絶望の中から希望が作り出され、道のないところに道が広がっていくのを見た。
深い悲しみを振り払うように、フィヲはファラの“生命”から迸った数々の魔法、幾つもの“奇跡”を胸に抱きしめ、皆を励まして決然と言った。
「落胆しないで!
ファラくんは前よりも強くなっています。
“炎”が現れなくても、彼の“生命”には、ちゃんと“フィナモ”が灯(とも)っているわ。
それは希望の灯であり、邪悪に対する烈火の怒号であり、剣から燃え広がる革命の炎。
シェブロン先生がただお一人で歩んでこられた“魔法革命”の道は、今わたしたち教え子が歩いた大地の上に、確かに広がっている!
レボーヌ=ソォラにも、ロマアヤにも、セトの天地にも。
だから先生が一番大変な思いをされたこのリザブーグで、“LIFE”が息衝かないはずはないでしょう。」
以前は控えめで、タフツァやソマの後ろに隠れる存在だったフィヲが、これほど真剣に話すのを見て、誰もが驚き、心を打たれていた。