第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
廊下にはしゃぎ声が聞こえてきた。
フィヲが扉を開け、ファラも旧王の間へ入る。
まだ昼食ではなく、皆真剣な面持ちで会議をしていたので、あわてて口をつぐんだが、二人を見て歓声が起こった。
次々と立ち上がる者もいる。
「ファラ殿!」
「ご無事で!!」
「各地の転戦、ごくろうさまです!」
ヤエが立ってフィヲの手を取った。
「もうお体はいいのですか?
食事を運びますので、ゆっくりしていてください。」
「大丈夫よ、わたしも運ぶわ。」
「まだ本調子ではありません。
ほら、あそこがお二人の席です。」
たしかに足取りはまだよろける感じがする。
皆フィヲを心配して準備には立たせなかった。
食事の支度には、城下から騎士たちの家族など、多くの女性があたっている。
彼女たちは会議が途中なのを気遣ってソマとヤエを席に戻してくれていた。
ざわざわと部隊ごとに話し合っている。
ヤエはすでに決まったこれからの作戦を図に描いて、ペンで示しながら二人に教えた。
一通りまとまったところで、ファラが立った。
「敵の動向について教えてください。」
タフツァが答える。
「テンギが行方不明になっている。
メレナティレにいたグルゴス、ヨムニフ、ホッシュタスも、あれから目撃されていない。
フィフノスの情報もないんだ。」
ファラは卓上で小型にした魔獣を召喚しながら話を始めた。
「メレナティレ城で悪魔と対峙した時、また魔法を奪われて集中が切れ、ぼくの召喚が解けてしまったようです。
・・・これはニムオー。
テンギを追わせていました。」
魔獣に触れながら記憶を探る。
ニムオーが目にした光景だ。
「森の地面に大きな穴が開いています。
テンギの体がすっぽり入るほどの。
しかしすでにテンギはいません。
この頃、フィフノスはヱイユさんを追ってメレナティレの近くまで来ていました。
そこでぼくと対決したんです・・・。」
魔法使いでない騎士たちは、なぜこのようなことができるのか不思議で、瞑想しながら言葉を紡ぎ出す少年の様子を恍惚として眺めていた。
「“LIFE”の魔法陣にフィフノスを封じた後、メレナティレが心配で、ぼくも引き返してしまいました。
あれだけ魔人が溢れていたのですから、フィフノスは誰かに助け起こされたでしょう。」
その時、全身から煙を上げ、苦しそうに北上していく術士の姿が映った。
「フィフノス!
どこへ向かっているんだ!?
ああっ、黒い翼の、・・・これは魔人じゃない、精神体の悪魔が!!
・・・フィフノスも、他の術士やグルゴスが連れ去られた方角へ行ってしまった。」
フィヲはファラが魔力を消耗するのが心配なようで、自身を含めてヒーリングを起こす。
「タフツァさん、北に奴らの根城があるんですか?」
「いや、分からない。
オルブームでは原始的な生活をする4つの部族が分け合って統治していると聞くが・・・。」
スヰフォスが答えた。
「彼らは皆、魔力を持たず、魔法の力に畏敬の念を持っている。
自然物が持つ魔力を借りて、それぞれの部族が『まじない』のような儀式を行うのだ。」
「そういえば、ヱイユくんが『ヤコハ=ディ=サホ(双牙の魔山)』や『長老の木』の話をしてくれたことがあるわ。」
「長老の木・・・!!
そこに魔族が集結しているのか!?」