第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
少年ファラは眠っていた。
テンギが鋭く突き出した槍に、シェブロン博士が狙われている。
ファラは博士の前に立ちふさがり、ドスッと槍を受けた感じがした。
血が流れているだろうか。
ついに死んでしまうのか。
しかしファラは、そんなことには構わないで、不敵な笑みを浮かべてテンギに叫んだ。
『お前なんかに負けるものか!!』
ハッと、ファラは身を起こした。
ベッドの上に寝かされていた。
隣にフィヲが眠っている。
「フィヲ・・・?」
声をかけたが、フィヲはスヤスヤと寝息を立てて目を覚まさない。
思いがけず、こんなに近くで彼女を見たので、ファラはうれしい気持ちになって、身をかがめ、そっと眺めた。
外を歩く人の足音が聞こえる。
ガラスのコップに氷が当たってリンと鳴った。
ファラは顔を赤らめて布団にもぐりこみ、寝たふりをした。
「どう、起きてる?」
ソマだ。
ファラは心臓がドキドキして、呼吸まで乱れてしまった。
「あら、ファラくん・・・?」
「ううん、・・・ここは?」
ごまかしてみても、まだ胸が鼓動していた。
「メレナティレ城から、よくここまで届いたものだわ。
フィヲが起きたらお礼を言うのよ。
あなたも苦しそうだったけど、フィヲは魔力を使い果たして、一時危険な状態だったんだから。」
「えっ!?」
「ふふっ、もう大丈夫。
・・・ところで、あなた熱でもあるの?」
ファラは赤くなった顔を見られないように反対側を向く。
「あははっ、一緒に寝かせたのが悪かったかしら。
お互いしっかりつかまっていて離れなかったのよ。
二人とももう心配いらないから、お水でも飲んだら昼の食事にはいらっしゃい。」
ソマが部屋を出て行った。
ファラは安心して、もう一度フィヲの寝顔に見入った。
「フィ、ヲ・・・。」
そっと頬に触れてみる。
いとおしい気持ちでいっぱいになった。
「あ、・・・ファラくん。」
両手を伸ばしたフィヲを、ファラは抱擁した。
「よかった、また会えたね。
もう少しだけ、休ませて・・・。」
ホッとしたためか、回復しきっていないためか、温かい布団の中、二人は互いに守り合うようにして眠りに落ちた。