第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
その頃、断崖の孤島ルング=ダ=エフサにも異変が起きていた。
外来の有翼獣が増えて島の動植物を脅かしているという。
護衛騎士ノイは病弱な妻を部屋で休ませておき、わが子を抱いて空を見上げていた。
「昔のリザブーグと似ている・・・。」
シェブロンが鍬(くわ)を担いで来た。
「リザブーグに眠っていた魔性が目を覚ましたらしいな。」
「ヱイユ君からの手紙に、もはや王国は滅びたも同然とありました。
王法もまた破れたのです。」
「“LIFE”を蔑(ないがし)ろにした国家の末路だ。
だからこそ、“LIFE”を以って国の柱としなければならない。」
シェブロンは近くザンダが艦隊を率いてここへ来ることを伝え聞いていた。
しかし、家族を持ったノイには、決戦のことを知らせたくなかったのである。
「先生!
私も覚悟ができております。
今こそ王国に入り、邪を改め、正を打ち立ててまいりましょう!!」
シェブロンは笑みを浮かべた。
まだ困惑はあった。
「コザリアはどうする?
その子は?」
ノイは当然聞かれると思っていたが、きっぱりと決断した。
「家族は連れていきません。」
「では、きみは必ず生きてここへ戻るんだぞ。
家族を守るため、生き抜くためにこそ戦うんだ。」
騎士である以上、体を張っても博士を護りたい。
“LIFE”のためなら、たとえ生命を投げ出しても構わないと誓ってきた。
それが、最も大切なこの時に果たせないのか。
「何度も教えたはずだ。
“LIFE”とは生きることなのだ。
・・・今回も君に護衛を頼んでいいか?」
「はい。」
逆境の時代を共に戦ってくれた大切な騎士である。
シェブロンはノイの永年の献身に感謝しつつ、“LIFE”の騎士となったからには、古い騎士道に殉ずることなく、真に“LIFE”に生ききってほしいと願っていた。
こうして師弟の絆は決戦という試練に立ち向かう秋(とき)、一層強固なものとなり、ザンダの艦隊の到着を待つばかりとなった。