第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
少年の存在に気付いた大蛇は、物凄い速さで地を這って眼前まで迫った。
これを盾による強打で挫き、円筒状の攻撃型ロニネで締め上げた。
伸ばしてみると、全長は大樹の梢よりも高く聳えた。
牙から毒液が飛散して、締め上げられた蛇身へ注いだ。
『打撃を与えるべきか、・・・いや、魔力を還してやろう。』
バネ状に渦巻きながら放散された魔法エネルギーが大地を潤していく。
この魔獣には「シラルル」と名付け、メゼアラムで捕らえることに成功した。
そこへ、遠くからファラを見つけたらしい様子で、ヱイユが飛翔してきた。
彼にしては珍しく狼狽し、息を切らしていた。
後進の弟子に対していつも絶やさない笑みが表われない。
「ヱイユさん、ご無事で・・・!!」
そう言った直後、ファラはヱイユが振り返る方を見た。
「まずい、あいつは・・・!?」
「フィフノスが本気を出してきた。
悪いがここで応戦してもらえないか?」
幾つもの戦場を駆けてきたファラには、敵の力量が分かった。
これまで戦ったどんな敵よりも危険で、おそろしく思った。
あのテンギさえ凌ぐのではないか。
話したいことはたくさんあったが、ファラは今ただ一つの肝心要があるとすればこのことだと直感して言った。
「ヱイユさん、これ、“LIFE”の魔法陣です。
師弟の勝利のため、どんな時にも込めてください。」
「すごいじゃないか・・・!!
分かった。」
ヱイユは感動で震えているようだった。
「ここはぼくが引き受けます。
魔獣の味方がいますので、ご安心ください。」
「すまない、今はどうしてもあいつらと戦っていられないんだ。
ザンダと連絡を取りたい。」
「はい。
メレナティレへ行って、トーハさんとフィヲをお願いします。
王城の最上階にホッシュタスが、王の間にグルゴスが、1階にヨムニフがいて、いずれもフィヲが倒しました。」
「なんだって!?」
「フィヲの力もすごいですが、“LIFE”の魔法陣の威力です。
・・・さあ、ここは任せて。」
鬼の形相そのものとなったフィフノスが、ヱイユとの間に割って入ったファラに、魔力の暴発する杖を振り翳(かざ)し襲い掛かる。
ファラはテティムルを込めた無刃刀で受け止めると、力で打ち返した。
勢い余って頭上を越えていきそうになるフィフノスに、今捕らえたばかりの大蛇シラルルが大地から現れ、咬撃する。
木々より高く持ち上げたが、ファラはシラルルに、大地へ戻れと命じた。
昇った勢いそのままに、今度は地面へ向かって大蛇がフィフノスを叩きつける。
シラルルはまるで水面に飛び込むように消え、フィフノスは辛うじて激突を緩和していた。
その額に、ファラは剣先を向けて言い放った。
「悪鬼め、お前は何に飢える?
戦いか、人の血か。
その驕(おご)れる心根、この場で打ち砕いてやろう!!」