第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
灰竜アーダの姿になれば人型で戦うよりも素早く動ける。
しかしアーダはソマを乗せてリザブーグへ向かっていた。
ヱイユは人間の姿で敵の間をすり抜けるように飛翔していく。
通り過ぎた後、全員が倒れた。
この程度の相手なら、方々(ほうぼう)へ散る前に一度潰しておくのがいいだろう。
フィフノスが見えた。
頭に被った角のある頭蓋骨が目の前に迫り、一太刀浴びせる。
かなり過ぎてから両足を着いてブレーキをかけ、切り返して更なる一撃をと振り返った。
すると、動物の頭蓋骨が割れているではないか。
側頭部に迫(せ)り出していた二本の角は動物の頭蓋骨ではなく、フィフノス自身の頭部から生えたものだった。
さすがにヱイユも動揺せざるをえない。
犬歯が異様に発達している容貌からも、「鬼」を思わせた。
額の毛は薄く、後ろ髪が伸びて一見毛皮のようだ。
「やっと正体を現したな。
お前、本当に現代語が分からないのか?」
先の勢いでもう一太刀入れていくべきだった。
フィフノスは怒気を漲らせ、右手の動作とともにヱイユの体を浮かせる。
その手をぎゅっと握った瞬間、ヱイユは首を締め付けられた。
次から次へと群集する黒い翼の者どもが、一斉に矢を放つ、吹き矢を放つ、ダーツを投げる。
全て跳ね返したが、このまま首を握り締められたら意識を失って、全て体に刺さるだろう。
と言って、実際に首を絞めているものは存在しない。
地上に立ってこちらを睨んでいるフィフノスの、右手の動作を止める必要があった。
『だ、だめだ・・・。
剣を握る力も、ううっ・・・!!』
すんでのところをフィフノスの背後の木に落雷が迸って、一瞬、絞首の手が緩んだ。
バチン!
鞭で打たれたように、フィフノスの右手が熱くなり、麻痺した。
「ヱイユに触れるな!
お前、本当に殺すぞ!!」
パピルスでフィフノスを締め上げたのは、遠くへ逃げ去ったと思われたヒユルだった。