第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
洞窟の奥でただボーッと待っていたソマは、魔天女ヒユルがこちらへ向かってきているのを察知して我に返った。
あれだけ痛めつけたのに、もう動き回れるなんて。
戦闘を覚悟した彼女は、洞窟入口付近まで出て身を隠し、トラップを仕掛けた。
かなりの魔力を持っていることは先の手合わせで分かった。
もう一度、大地に供してケリをつけておきたい。
ザッザッザと足音を立てて接近してきたヒユルは、急に体が重たくなったことに気付いた。
次の一歩が踏み出せない。
「くそっ・・・!!
あの女、ヱイユに首を投げつけてやりたい!」
すぐ横でソマに聞こえた。
ヱイユとのことを言われて沸々と怒りが込み上げる。
飛び出してわざと姿を見せたソマは、ヒユルの敵対心を読み取った瞬間、相手がぺしゃんこになるほど重力をかけた。
両手をついて憎憎しげな顔を上げようとするヒユルの、顔も見たくない。
轟々と地上の魔力が渦巻いて大地に還っていく。
ヒユルの魔力は、発動が不可能なほど吸収されていった。
「汚らわしいあなたの魔力、私は少しももらいたくないわ。
大地はどんな者の屍(しかばね)も新しい土に変えてくれる。
ここで消えてなくなりなさい・・・!!」
言い返したくても声が出せない。
ヒユルはソマの憎さ、ヱイユへの慕情、そしてテンギに女の体を奪われた悔しさで、今こんな姿を晒していることが悲しくてしょうがなくなった。
締め付けられて声は出ないが、堰を切ったように涙が流れた。
ソマは心を動かされつつも、気を許せばつけあがると分かっていたので、更に締め付けた。
そこへヱイユが戻ってきた。
「・・・ヒユル!
お前はなぜ反“LIFE”に加担する?
その魔力、民のために使うことはできないのか?」
ソマが力を緩めたことで、ヒユルは上体を持ち上げた。
「うるさいッ!
早くこの女とどこかへ消えればいい!!」
近付いて手を取るヱイユに、ソマは嫉妬を感じたが、そのまま見守った。
ヒユルは恥らい、振り払って、ニサーヤを呼び出したかと思うと、遠くへ飛び去ってしまった。
「大丈夫か?」
「・・・ええ。
あなた、どうしてあの女のことを・・・。」
「どんな敵であれ、“LIFE”に逆らった後には必ず“LIFE”に縁して生まれるものだ。
更生を信じてやらなければ。
『人の地に倒れて、還(かえ)って地より起(た)つが如し』だ。」
無事に会えた喜びは、二人の心を強く深く結びつけたが、情に任せて抱き合うことは憚(はばか)られた。