第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
個々の魔法において、馬鹿の一つ覚えのような使い方しかできないのだろうか。
テンギはヱイユの体を目掛けてズーダを撃ったり、ザイアを撃ったりしたが、その間に防衛壁が張られていることが分からないらしい。
なぜ、炎に包まれても燃えないのか、不思議でしょうがなかった。
それでももし、このままあらゆる魔法を身につけ、誰かが入れ知恵でもするならば、手に負えない敵となってしまう。
ヱイユはここでケリをつけておくべきだと思った。
倒すといって、殺傷することはできない。
ではどうするのか?
彼は、殺すのではなく生かす方法があるとすれば、それはテンギの生命が尽きるまで大地にエネルギーを注がせ続けるようなやり方しかないのではないかと考えた。
戦意をなくすまで打ち合ったところで何になろう?
すぐに回復して、何度でも敵として目の前に立ち塞がるに違いない。
そしてそのたびに戦闘力を増していくとしたら。
10の腕、10の脚が凶器となって襲い掛かってくる。
魔法が使いこなせなくても、最も得意な肉弾戦がある。
ヱイユはもう、まともに組み合うことは無駄だと知っていた。
軽々と後方へ飛び退(すさ)り、十分な距離を取って魔法を放つ。
轟音とともにテンギが竜巻に包まれた。
辺りの木々の枝葉も乱れ飛んだ。
その竜巻はエアースコップとなって、瞬く間にテンギの足元の地面を穿(うが)ち、深い穴を作った。
体がすっぽりとはまった形である。
切り裂かれながら、ついに一番下の足で立っても頭が地面に埋まるほど地中深くへ置かれてしまった。
そのまま、ズゴン、ズゴンと大地が揺れて、穴の周りの地形が崩れる。
テンギは抑え込まれて動けない。
大暴れしたが、土に埋められてしまった。
「気道は確保しておいてやる。
だがな、そこから出られると思ったら間違いだ。
全てお前の命運というものだ。
大地と風雨に翻弄されて飢え死にするか、これまでの非を悔い改めるならば、生き永らえる術(すべ)もあるだろう。」
こう言って立ち去りかけた時、東の方からゾロゾロと、背中にコウモリのような「黒い翼」を持つ術士たちが、――剣士たちも・・・、大勢姿を現した。
先頭を歩く男に見覚えがあった。
「貴様、フィフノスだな・・・!!」
人の話す言葉でない声を出して、何やらボソボソと言った声が嗤(わら)っていた。
かわりに別の術士が通訳した。
「『小僧、今ヒユルが洞窟の方へ向かっていったが、追いかけなくてもいいのか?』、だとさ。
へっへっへ・・・。」
さすがにヱイユも胸騒ぎがして、敵の大群を前に、引き返すことになってしまった。