第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
それはソマとヱイユにとって、2時間ほどの休息だった。
ふらふらになりながら、手を取り合って戦場を離れると、ソマが洞窟の入口を見つけてヱイユを誘った。
わずかな明かりを灯して、風の音しかしない洞窟の奥で二人きりの時間を過ごす。
人間も動物であることに変わりはない。
ソマはしきりにヱイユを求め、なかなか寝付こうとしなかった。
「俺の気持ちを知らないはずはない。
ずっとお前を思っていたよ。
何も心配いらないから、今は少しでも魔力を戻しておいてくれ。」
「ほうとう?
うれしいわ・・・。
このまま、あなたとずっと、ここで暮らしていたい・・・。
ねえ、ヱイユくん・・・?」
口付けはもう許してしまった。
何度も求められ、ヱイユは拒まなかったが、彼は戦局を見誤らない。
高ぶるソマの心身を静めるように、優しいやり方で先のことを考えさせるよう努めた。
本当はソマをもっと休ませてやりたかったし、許されることなら彼女にもそろそろ家族を持つ幸せを与えてやりたいのだ。
両親とも、育ての父母(ちちはは)とも別れて、淋しい少女時代だったに違いない。
しかし、今彼女を戦線離脱させてしまうことは、本当に彼女のためになるだろうか。
師シェブロンを、弟子の手で助け出すのか、あるいは最悪の敵の手に委ねてしまうのか、それはこの戦いにかかっている。
ヱイユは自身が悔いを残さぬためにも、将来、否しばらくしてソマが冷静になった時に自分で行動を悔いぬためにも、あと少し、二人で頑張らねばと思った。
真に心を通わせるためには、共に休んだ後、共に立ち上がり、戦いに行かねばならない。
素直に恋慕する情はひとまず置く。
彼は愛撫することをやめ、力を込めて彼女の背中を叩き、肩を叩いた。
「ほら!
気が済んだら寝ろよ。
俺はお前の戦いに全力で加勢する。
お前も俺の戦いを全力で支えてくれ。
俺は休まなければならないんだ。
そしてお前も、甘えている暇があったら、限られた時間で全回まで持っていったらどうなんだ!」
ソマは一瞬ムッとなったが、笑いが込み上げて吹き出した。
二人はごつんと額をぶつけ合うと、再び体を寄せ合い、ようやく休息に入れたのである。
長かったのか、短かったのか。
“永遠”を抱(いだ)いて二人は眠った。
ヱイユが時間を気にして体を起こそうとすると、それまですやすやと眠っていたソマの両腕が急にこわばった。
離れるのがつらい。
かわいそうなソマ・・・。
再び温かい眠りに落ちる。
夢の中の二人はまだ子供の頃の姿をしていて、互いに背中を寄せ合い、日の光が差す森の中で魔法の本を広げたまま、居眠りしているようだった。
そうした時、ソマは眠っていても、ヱイユは眠れなかったものだ。
だが彼の心は満たされていた。
それは生まれて初めて腕に抱いた、かけがえのない家族の温もりだった。